出張の行き帰りでまとめて読んで読了。スパイ小説よりもリアリティがあって興味深かった。
- 作者:ジョン・アール・ヘインズ,ハーヴェイ・クレア
- 出版社/メーカー: 扶桑社
- 発売日: 2019/09/26
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
米国の共産党はもとより政府高官から、ジャーナリスト、芸術家*1、資産家、原爆の技術者、労働組合まで、ここまでソ連のスパイが入り込んでいたとは驚いた。「ヴェノナ」がカバーする戦前の1930年代から戦後にかけて、まだ枢軸国との戦争において米国とソ連は連合国、同盟関係だったのに、ソ連はほとんど敵対国として米国にスパイ網を構築し、情報収集していた。本書の著者が指摘するように1950年までに判明した事実だけでも、ソ連が自ら冷戦を招いたといえる。冷戦により数十年間に国家予算を揺るがすほどの費用がかかった核爆弾開発競争や、朝鮮戦争などの代理戦争や国内粛清により1億もの人々の命が奪われた。このことを思えば、第二次世界大戦で枢軸側と戦うよりも、米国は日本、ドイツと同盟してソ連を叩いていればはるかに戦後は平和な時代が続いたのではないかと思える。私は、戦争に至る日本の北進から南進への大きな政策、戦略転換に興味を持ってみてきたが、米国こそが北進すべきだったのではないだろう。*2
監訳者の中西輝政氏が指摘するようにこれだけ大規模のスパイ網構築が米国において行われていたのなら、日本の北進から南進への展開を伝えたスパイ、ゾルゲを英雄として扱うほど日本において共産党、労働組合、政府機関、政治家、軍隊にどれだけソ連の息のかかったスパイがいたのか。恐ろしいことだ。資金の提供、ソ連の体制の美化、思想の流布など、日本におけるソ連のスパイの展開がどれだけ日本、日本国民に影響したのか?いつか明らかになる日が来てほしい。
そうそう、なにより本書は防諜の教科書として使われていると聞く*3。日本における防諜機構が健全に運営されていることを祈る思いだ。いや、こういう事件がいまだに起こっているところを見ると、いまだに日本はスパイ天国なのだろう。