以前から体型的に読みたいと思っていた「ヴェノナ」についての本が本屋で横積みされていたので、買って読み始めた。スパイ小説を読んでいるようで、スリリングな気持ちで読める。FBIなどの国内捜査機関が地道に操作した戦前、戦中のソ連からのスパイたちの活動が、1995年に公開されたソ連の暗号解読プロジェクト、ヴェノナによって裏付けられていく。
- 作者:ジョン・アール・ヘインズ,ハーヴェイ・クレア
- 出版社/メーカー: 扶桑社
- 発売日: 2019/09/26
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
本作戦開始以来、半世紀以上に渡って極めて高度な機密として秘匿されてきたが、米ソ冷戦の終結、1991年のソビエト連邦の崩壊などの状況の変化を受け、1995年7月にこれらソビエトスパイの暗号解読文書の一部が公開され、さらなる公開で約3000に上る解読文書が公開された[3]。 現在、これら解読文書の多くは米国CIAやNSAのホームページにて公開されている。
ベノナ - Wikipedia
いわゆるマッカーサー旋風は必ずしもオーバーシュートしすぎたものではなかったことが地道な検証作業で明らかになっている。例えば、ブレトン=ウッズ体制の礎をケインズと二人で築いたハリー・ホワイトもソ連のスパイであり、共産主義体制に共感する人物だったことがヴェノナにより明らかになったのだと。更に云えば、日米開戦を確定させてハル・ノートにもホワイトは関わっている。
1941年11月17日に「日米間の緊張除去に関する提案」を財務長官ヘンリー・モーゲンソーに提出、モーゲンソーは翌18日にこれをフランクリン・ルーズヴェルト大統領とコーデル・ハル国務長官に提出した。これがハル・ノートの原案である「ホワイト試案」(または「ホワイト・モーゲンソー試案」)となり、大統領命令により、ハル国務長官の「ハル試案」と併行して国務省内で日米協定案とする作業が進む。25日に大統領の厳命により、ハル長官は「ハル試案」を断念、この「ホワイト試案」にそっていわゆる「ハル・ノート」が日本に提示される[要出典]。
ハリー・ホワイト - Wikipedia
ゾルゲと接触していた宮城与徳に関する記述も出てくる。この辺は全部を読み終わってからまとめたい。並行して読んでいる「コミンテルンの謀略と日本の敗戦」で背景も学んでいる。この本はヴェノナの情報を下敷きにして改めてソ連の成立から日本の敗戦までを記述している。ボリシェビキがなんであったかもようやく理解しつつある。
それにしても、思うのは機密文書として扱われているのが米国の経済見通しだったり、米仏の大統領間の仲違いであったり、いまならウェブですら出てきそうな情報がソ連にとってとても大事であったという事実だ。これも全巻読み終わってから、米国から莫大な支援を受けていたソ連がいかに戦後に米国の対立勢力となる準備をしていたかはまとめたいが、現在のように情報が行き届いていれば、国のトップの開戦という決断も変わっていたのではないかというくらい情報の質、量が足りない。よくゲーム理論で完全情報か、不完全情報かという前提が扱われるが、戦前の世界の対立構造というのは相当に限られた情報の中で戦争が決断されていのだと背筋の寒い想いがある。現代のように情報が行き届いた国際社会であれば、合理的な判断を期待できる相手には限定的な武力行使になるのはゲーム理論からも明らかなのではないだろうか?
先を読むのが楽しみだ。