夢中になって読んだ。主人公ウムボルトが次第に時代の悲劇に巻き込まれていく。
- 作者: 安彦良和
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物語もここまで来たので、以下はネタバレを含む。
舞台の動かし方もいい。そのつどの舞台に応じた人物の強調も忘れていない。たとえば日本に戻っている石原莞爾のところへ尾崎秀実を訪問させて、石原に対ソ謀略をやめさせようと提案させたりもする。尾崎はコミンテルンのスパイとしてのちに処刑されることになるのだが、このときの石原の描き方は時代を読み切っている人物として威風堂々になっている。石原と辻の描き方をまちがわなかったのが、この作品に太い幹線を走らせる成功要因になったのだろうとおもう。
http://1000ya.isis.ne.jp/0430.html
この物語の背景として、石原完爾の「最終戦争論」に基づく、満州を日本の国領増強の基地として、20年、30年後に米国と戦うという構想がある。
ソ連は、率先して幾多の犠牲を払い幾百万の血を流して、今でも国民に驚くべき大犠牲を強制しつつ、スターリンは全力を尽しておりますけれども(略)もしものことがあるならば、内部から崩壊してしまうのではなかろうか。
(中略)
今日から二十数年、まあ三十年内外で次の決戦戦争、即ち最終戦争の時期に入るだろう、ということになります。[HPO註:1940+30=1970年]
(中略)
満州国の東亜連盟防衛上に於ける責務真に重大なり。特にソ国の侵攻に対しては、在大陸の日本軍とともに断固これを撃破し得る自信なかるべからず。
石原完爾の「最終戦争論」からのぬきがき - HPO機密日誌
この石原の構想の実現のためには、ソ連、中国との二正面作戦はなんとしても回避することが原則となる。この原則から、ユダヤ人を容れる戦略が出てくる。この活動の実践家として安江大佐が出てくる。杉浦千畝のユダヤ人を救った活動も陸軍のこの構想に基づく、がそれは別の話し。
よって、ユダヤ人であるトロツキーをいかに取り込むかが戦略となってくると。ここにまだ見ぬ虹のようにトロツキーという存在が浮かび上がってくる。そして、石原の思想を命令違反をしようが、参謀本部からの電文を破り捨てでも実行しようとする「狂言回し」として辻政信が出てくる。
私はこれまで太平洋戦争における辻政信の活動を知って、嫌悪すべき、唾棄すべき人物として認識していた。陸軍の謀略体質をそのまま体現しているという意味では、この認識を変える必要はないが、日本はあくまで北進すべきであって南進すべきではない、中国とすら戦うべきではなかったという主張を押している姿勢を評価すべきだと感じた。
そして、最終二巻でノモンハンへと突入していく。