HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

春の夢とユニコーン

もう萩尾望都先生にお詫びしたい気持ちでいっぱいだ。「春の夢」を読んだ時は、正直、「萩尾望都先生も変わられてしまった、こんなところで◯◯◯が出てくるなんて!」とびっくりしていた。それが、「ユニコーン」を読んですべてが繋がった。天才の中ではもう最初からこれらの物語が出来上がっていたのだと・・・。私には「ユニコーン」という補助線を与えられ、関連する物語をすべて見せられて始めて「春の夢」の物語が理解できた。

ポーの一族 ~春の夢~ (フラワーコミックススペシャル)

ポーの一族 ~春の夢~ (フラワーコミックススペシャル)

ポーの一族 ユニコーン (1) (フラワーコミックススペシャル)

ポーの一族 ユニコーン (1) (フラワーコミックススペシャル)

hpo.hatenablog.com

おっとっと、「ユニコーン」には(1)とある。この物語はまだ続く。次は、まさに現代に生きるエドガーが描かれるのだろう。

作者は「「ユニコーン」の続きは2020年に入ってから」と述べている[

ユニコーン (ポーの一族) - Wikipedia

更に思うに、この物語は音楽に触発されて書かれている。「ポーの一族」にもナーサリー・ライムが流れていた。「ユニコーン」ではホフマンの舟歌がそもそもタイトルになっている。

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来年を迎えるのが楽しみになった。

奥性 「広場のデザイン」途中経過

「広場のデザイン」は大変興味深い。多くの方にとっては、公共デザインとは使うものであっても、参加したり、興味の対象となるものではないだろう。しかし、オガールの例にように今後地方が疲弊していく中え、興味を持ち、参加すべき対象となってくる。

広場のデザイン―「にぎわい」の都市設計5原則

広場のデザイン―「にぎわい」の都市設計5原則

本書を公共デザインに関わる方からご紹介いただくまで著者の小野寺氏を存じ上げなかった。大変、公共のデザインについて広い知識を、深い洞察と、熱い情熱のある方だ。

www.onodera.co.jp

この方が日本型の「広場」とは「参道」である、浅草仲見世のように常に奥になにかあると感じさせるデザインなのだという。浅草と言えば、桃知さんだと。確かに、桃知さんの「街」論と通じるものがある。そして、門前街に生まれ育った私には大変感じるものがある。本書に成田の参道が載っていないのが残念だが、成田の参道は山の稜線沿いに形成された。従って、どこをとっても曲がっている。現代的な街づくりとは対極にあるがにぎわいが絶えることがない。この視点に立って、本書前半の西欧の広場デザインとの比較を行うことは大変興味深い。そして、またこれからを考える上で重要だ。

本書を紹介いただいた方に深く感謝したい。

「町の未来をこの手でつくる 紫波町オガールプロジェクト」

街づくりをここまで地元主導で、かつ丹念にやっていらっしゃってすごいとしか言いようがない。

著者の猪谷さんのハフポストの記事は永久保存版。

www.huffingtonpost.jp

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何年も塩漬けにされ、「日本一高い雪捨場」と揶揄されていた駅前の町有地が今、年間100万人が訪れるエリアになろうとしている。公民連携によるまちづくり「オガールプロジェクト」を10年がかりで進めてきた岩手県紫波町。2017年4月に最後のエリアの整備が終了、その中核となる公民連携施設「オガールセンター」のグランドオープンを迎えた。

このエリアには保育園が開所。隣接するオガールセンターには、紫波町の「こどもセンター」や、小児科クリニック、病児保育施設、キッズ英会話教室が入居し、新たな町の子育て拠点として期待される。このほか、人気ベーカリー「メゾンカイザー」の起業家からアドバイスを得たパン屋や、アウトドアブランド「スノーピーク」などのショップもオープンした。

プロジェクトの本格始動から10年。これまでオガールプロジェクトでは、広場や図書館、役場庁舎、バレーボール専用体育館、ホテル、分譲住宅などを次々と整備してきた。オガールセンターの完成で、プロジェクトは一段落するが、「施設や町並みが完成しただけ」と、オガールプロジェクトの関係者たちは話す。全国から注目を集めるこの町で、何が起きているのか。この先には何があるのか。紫波町を訪ねた。

タイトルにもあるように、これだけのプロジェクトを土地の提供以外、補助金に頼らずに実行できたご手腕には感服するのみ。私も地方に住んでいて実感するのだが、住民・商工業者、行政、専門家・開発関係会社の三者が同じ方向を向いて地域の未来をデザインし、実現しようとする時、すばらしい力が発揮される。「公民連携」については、まだ勉強中だが今後さまざまな「形」が出てくることを期待したい。

民間主導・行政支援の公民連携の教科書

民間主導・行政支援の公民連携の教科書

戦争以上に人口が減っているにも関わらず、新たな人と人との絆、社会的紐帯を見いだせていない日本。少なくとも、地域のこうした試みが明日の未来につながると私は信じている。

p-shirokuma.hatenadiary.com

「若者」をやめて、「大人」を始める 「成熟困難時代」をどう生きるか?

大変興味深い本だった。初めて、現代の20代が理解できそうな気になれた。そもそも、私にとって「ゆとり教育」以降の人達は、価値感が大きく違うという印象がある。私の頃はまだばんからというか、若い日に苦労は勝手でもしろ、どこまでも一生懸命働くことがかっこいいという風潮が残っていた。しかし、いまの若い人達は「苦しいと想ったら逃げろ」、「自分のいやなことは一切しなくていい」という教育環境で育ったように私には見える。

「若者」をやめて、「大人」を始める 「成熟困難時代」をどう生きるか?

「若者」をやめて、「大人」を始める 「成熟困難時代」をどう生きるか?

そんな世代と私との中間の世代であるシロクマ先生、熊代さんが書かれた本書には、自分のことよりも自分の子供や、部下など、自分に近しいものの成長を心から喜べるか否かが、子供と大人の違いなのだと主張している。ご自身がプロゲーマーじゃね?、くらいに自分のことに集中していた時期から、結婚や、子供を持つ体験から別の人生の価値を見いだした経験が大きいと書かれている。そうか、いかに現代の二十代にドラクエのように経験値を積み重ねさせ、自分のために生きるよりも、人のために生きることが喜びが多いかを分かってもらえれば良いのかと。

内容理解のために目次を引用しておく。

第1章 「若さ志向」から「成熟志向」へ
第2章 「大人」になった実感を持ちづらい時代背景
第3章 「大人のアイデンティティ」への軟着陸
第4章 上司や先輩を見つめるポイント
第5章 後輩や部下に接するとき、どう振る舞うか
第6章 「若者」の恋愛、「大人」の結婚
第7章 趣味とともに生きていくということ
第8章 「歳を取るほど虚無」を克服するには

ただ、私の経験からすれば、仕事や、人生における「強さ」とは認知的な価値の理解よりも、実際にどのような生活をするかの習慣が大きいように思えてならない。繰り返すが、いかにドラクエのように日常の生活そのものが修行であるか、すこしずつ道しるべを踏んでいけるか、若い人に教育プログラムを組めるかあまり自信がない。

別の視点で言えば、私の年代になっても若者そのものの価値感の人もいないでもない。人生百年時代の矛盾とも言えるが、いくつになっても「若い」ことが価値があるとされている。50代、60代になっても身体を鍛え、新しいものに挑戦し、若者ぶった格好をすることが価値があるとされている。

hpo.hatenablog.com

しかし、この価値感ではいくつになっても「自分」が先に立って、後輩や、子供の成長のサポートにまわる喜びの実感が語れない。人間、どこかで身を引いて後進の指導、サポートに当たるのが本当ではないか。というか、老境になっても自分、自分となるので、若い者達が進出する余地がなくなる。

hpo.hatenablog.com

もし若く居続けようとするなら、自分のステージを常に変革していく必要がある。自分自身が「先輩」でしかも「若く」居続けようとするから矛盾が生じる。

まあ、まさに人生至る所に青山あり、難所ありといったところか。

togetter.com

心理学の諸問題はネットワークの問題に還元可能であるという確信

何度も書いているので、今更だが私は大学学部生時代に心理学を勉強した。残念ながら実業の道に走りいまに至るが、学部生時代人間の認識とはなにかを自分なりに追求していた。学問にはそれぞれの方法論がある。心理学の方法論は、医学、生理学、物理学とは自ずと異なる。当時は心理学の実験と統計が主な方法論だった。医学のように解剖をすることもなく、生理学のように神経の化学的性質も調べることもなく、物理学のように決定的な現象を発見することもない。先日読んだ「認知心理学への招待」が尊いのは、そうしたフレームワークの中で実験計画を洗練し、少しでも人間の認知的、ということは意識現象に近づこうという取り組みが分かりやすく書かれていたからだ。

hpo.hatenablog.com


私がそうした実験心理学で卒論を書こうと想ったのは、当時の実験の枠組みで解明できるのは、色や形、そして、動体の検出、奥行きの検出がせいぜいであったからだ。30年前の当時から、コネクショニズムニューラルネットワークにより人間の認知現象は説明されうるというさまざまな見解は示されてた。特にデイヴィッド・マーの計算理論は影響を受けた。人間でも、機械でも、共通の認識のアルゴリズムは存在すると。

hpo.hatenablog.com

そして、04年辺りからブログを始めて、心理学で学んだ諸問題は結局ネットワークの問題だと考え始めた。複雑ネットワークと呼ばれる、私の視点からすれば人間の認識系統の神経コネクションの特性を科学する分野に見えた。そして、スケールフリーネットワークの特徴であるべき分布が人間、社会で広く観察されることを知った。ついには、人間の認知、社会的な現象、生物の生殖、身体構造に至るまでべき分布が認知を生じうるネットワークと関わっているという見解に至った。

hpo.hatenablog.com

ここのところ、心理学、認知諸科学とのご縁は薄かったが、ひょうんなことから、「認知心理学への招待」を読んだ。心理学、認知科学の最新の知見に触れることができた。そして、この本を読んだとブログに書いて以来、Amazonから「意識はいつ生まれるのか」を推薦されまくった。で、読んでみた。

本書は、意識とは脳のニューロンの結合が十分に統合され、十分に複雑な反応をもたらす状態になっている時に意識があるという統合情報理論を展開している。


この理論によれば、意識には、情報の多様性・情報の統合という二つの基本的特性があり、ある物理系が意識を持つためには、ネットワーク内部で多様な情報が統合されている必要があるとされる。ネットワーク内部で統合された情報の量は「統合情報量」として定量化され、その量は意識の量に対応しているとされる[1][2]。

意識の統合情報理論 - Wikipedia

トノーニによれば、ごく単純なネットワークにおいては、入力に対して単純な反応しか返せない。これが上図の右上の図となる。小脳はこのネットワークに近い。逆に、全てのノードが完全につながっているネットワークも単純な反応しか返せない。これにしている「複雑」なリンクの仕方をしているネットワークこそが意識の生成状況であると主張している。

著者のトノーニにより「統合情報量」はきちんと定義されている。計測装置すら開発し、複数の意識レベルの被験者に対して実験的に意識が存在(統合)されいるかの計測すら行っている。

www.riken.jp

トノーニの主張するニューラルネットワークは私には、べき分布しているネットワークであるように見える。小脳は大変多くのシナプスをもっているが全体が統合されていない。このため、短い時間で、単純な反応しか示さない。しかし、スケールフリーネットワークのように、シックス・ディグリーと呼ばれる複雑でありながら、多くとつながるノード、少数とだけつながるノードがべき分布することによ、全体が統合されるネットワークが存在する。

前述の「測定装置」は磁力を使ってシナプスに無理矢理に刺激を与える装置と、脳波測定の二つから成り立っている。実は、学部生の頃から私が卒論を書いた研究室の隣では脳波と人の意識レベルの研究が行われていた。私のおぼろげな記憶だと覚醒状態では脳波が1/f分布、パワー分布すると言われていた。つまり、まさに本書が示す通り、つながりが少ないが沢山あるシナプスと、多くとつながりが数がすくないシナプスが、それぞれの波長の脳波を示し、全体がべき分布しているか否かを計測していた。だからこそ、トノーニの研究にとても興味がそそられる。

まあ、何でも興味は持ち続けるものだなと。

進化はスピードが一番

結局、日本が産業において先進国からすら脱落しつつあるのは、進化のスピードが遅いから。もとから変化には時間がかかる国柄だったのが、太平洋戦争で多くの命が失われ、GHQのパージも行われ戦後は指導者の席の空白になって若い世代がリーダーとなったために日本の奇跡的な復興が進んだ。その「空白」が埋まってしまえば、また変化に時間がかかるお国柄が弊害となってくる。

ちなみに、このプロセスの代表格がこの方。海軍で戦後のリーダーとして短期主計という戦死しないポジションに抜擢されていた。その方がその後の日本の政治改革に立ちはだかる老害になったことは知られている(はず)。

www3.nhk.or.jp

スマフォのアプリがあらゆる面で進化が止まらない。カメラは愚か、時計から、地図から、書籍からありとあらゆるスマフォ以外のハードで実現していた機能を取り込んでいる。証券取引の超高速アルゴリズムも同様。ハード、ものづくりにこだわっている限り日本はますます遅れていくだろう。心から年寄りはさっさと退場するか、後進に道を譲るべきだろう。

「最新認知心理学への招待」

一気読みした。曲がりなりにも認知心理学を学部で勉強した。非常にわかりやすく明快にかかれていた。おかげで、卒業して30年余りになるのに、よく理解できた。数十年で進化した知見もアップデートできたように想う。なにより、改めて、認知心理学が現代のAI研究の今後に非常に重要な役割を果たすのだと確信した。

最新認知心理学への招待―心の働きとしくみを探る (新心理学ライブラリ)

最新認知心理学への招待―心の働きとしくみを探る (新心理学ライブラリ)

視覚、注意、記憶、判断からコネクショニズムに至るまで、認知心理学が積み重ねてきた人間のメカニズムを探る実際の実験に基づく知見が見事に整理されている。外形的な実験を工夫し、ここまで内部メカニズムを解明できていたのかと改めて感激した。この実験、観察に関わる知見は、そのままAIに応用可能だろう。AIの開発する側は高度なハードウェア、ソフトウェア技術で進むが、高度化すればするほどブラックボックス化してしまう内的なメカニズムをいかにホワイトボックス化することは、今後法的責任能力などの議論が進む中で必須となる。

また、現在の人工知能は基本的にニューラルネットワークの発展型であるので、何がどのように学習されているのかは、人間にはわからない。Google社のAlpha GOが人間の棋士を打ち負かしたとは言え、Alpha GOの知能ネットワークのどこにその知見が蓄積されているのか分析できていない。人間、いや生物の自然なニューラルネットワークすら、完全には知能のサイドから分析できているわけではないので、当たり前ではあるのだが、これもまたブラックボックスのままとなってしまう。

演繹と帰納、あるいは人工知能はヒューマンエラーの夢を見れるか? - HPO機密日誌

今後が楽しみ。