ユヴァル・ハラリ氏は「サピエンス全史」の頃から人類は「虚構」の上に歴史を築いてきたと主張されてきた。本書において人生の「意味」すらも否定され、人間の自由意志など生化学的プロセスに過ぎないと。そして、この虚構の自由意志こそが人間の苦しみの原点であるとも主張されている。もうまさに仏教そのものであり、「色即是空空即是色」かと。
本書を順番通り読めば歴史学者として人間の文明の変遷をいろいろな角度から的確に分析して行っている。まさに「色」を極めて行って、最後に「空」に至ると。逆に最後の「瞑想」の章から読み始めれば、次の章で「意味」が否定され、以下国際政治、テクノロジーなどなど「色」の世界が苦しみをもたらすプロレス分析として読める。
翻訳者の方のインタビューではまだユダヤ人らしさが随所に感じらながらも、「虚構」を指摘されている。
ハラリ氏にとっては宗教的信念や、道徳を声高に唱えながら、一方で自分の損得で日常を送る人々が精神的な怠惰、人間の狡猾なチャンネル切替装置であると映る。イスラミックステートがフランスの爆撃による死亡者を「天国で生まれかわった」と讃えながら、死に対する報復をテロの形でフランスで行うことは矛盾ではないかと。まさに、人間は精神的怠惰のもとに自分なりの物語を紡いでなんとか生きている、苦しみに苦しみながら。
真実を追究するハラリ氏の姿勢は修道僧や、預言者のような言葉に感じられすらする。それでも、読み切れたのは映画や、SF小説などを上手く「法話」の「方便」として使われているからだ。例えば、ディズニーの「インサイドヘッド」という女の子の内側で働くプロセスをアニメにした作品に着目して自分がいかに「自分会社」の社長ではないかを示している。このアニメ、考え方は私にはとても親しい。
人間の物語の典型として「バガヴァッド・ギーター」のアルジュナ王子が随所に出てきたが、これもまた懐かしい想いがある。
更に、人間の文明のひとつの面白くない帰結としてのハクスリーを上げられている。これは橘玲氏の「無理ゲー社会」の帰結と同じかなと。
他にも民主主義は合理性ではなく感情の問題だとか、アルゴリズムが全てを支配する近未来の可能性など大変興味深かった。読書しながらツイッターでメモをいくつか取っていた。
#21lessons の「雇用」ではテクノロジーの進展が大量の失業者を高い確率で産み、ユニバーサルレーシックインカム、ないしサービスを社会実装しなければならなくなると。しかし、最後のオチが一生働かないイスラエルのユダヤ教超正統派の存在とはびっくりしました。
— ひでき (@hidekih) 2021年11月23日
ただ賢い人であるだけに全てに一貫した説明をしてしまうことが逆に我々凡人からすると解決策たり得ない提言となっている。いや、色即是空空即是色で単純化できない、物語にしてしまうことが危険であることが本書のテーマであることは十分に理解している。それでも、この方のご意見は首肯せざるを得ない。
ある方が「世の中は悪人とバカが動かしていることを死ぬ前に知れて良かった」と呟いていました。
— 渡邊良夫@地質技術者 engineering geologist (@geolgengineer) 2021年12月13日
ひでき様のおっしゃる通り一番の問題点はそこにあるのであって、高度に知的な方々はいても現実社会への橋渡しする道筋が無くてむなしくなります。 https://t.co/iMnstHYgo5
にしても、改めて心静かな時間、瞑想、坐禅の大切さを気づかされた。