HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

サステナブルな社会構造: 「人工知能と経済の未来」

人工知能と経済の未来」を読み終わった。大変、示唆に富む本だった。人工知能というのはある意味でひとつのモチーフであり、産業構造がますます人手がいらくなくなるようになった未来をどう維持可能とするかを適切に思考している。

以前から開発主義経済について産業構造の変化との考察を経済学者がなぜ明確に言わないのか不思議に思っていた。いや、いくらでも開発経済学はあるじゃないかと想われるだろうが、開発が一巡した後、成熟社会への遷移についての言説を読んだ記憶がない。

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アメリカの経済学者タイラー・コーエンは、その著書「大停滞」で、人々の物質的な生活は1950年代以降はほとんど変化しておらず、自動車も冷蔵庫も洗濯機も既に存在しており、なかったのはインターネットくらいであると言っています。これはアメリカの話しですが、日本でも高度経済成長期が終わった1970年代から、身の回りにある家電製品がほとんど変わっていないとよく言われています。
(中略)
いずれにせよイノベーションの果実は完全に食べ尽くされ経済成長は停止するかもしれません。あるいは、何らかの要因によってイノベーションが活発化し、経済成長率が高まる可能もあります。

と、ここから人工知能がいかにあらたな「汎用目的技術」となり、産業構造から究極までに人手がいらなくなる世界が描きださえれていく。人類全体の生産におけるべき分布で10%の人類が人工知能を使い(使われ?)全人類に必要な100%の生産を行う未来像である。恐ろしい。

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とはいえ、ものづくりの現場に近いところにいる私の目からすればまだ絵空事。仮に汎用人工知能が開発されても、人体に相当する「義体」が安価に製造できるようにならないと現場での人手は必要。その意味では多くの人間が人工知能に使役される未来も描きうる。恐ろしい。

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本書の真価は、最終章のBIがサステナブルであることを示した部分であると私は考える。

もっともこの辺の議論は原田泰氏の本に依るらしい。ベーシック・インカムについての経済学的な議論がなされていることを知らなかった。停滞しているのかと想っていた。

私は汎用人工知能の未来には確かに富が全人類に行き渡る仕組みが必要だと考える方。しかし、家族の問題などかなり制度設計が大事だと強く問題があるのも事実。

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この議論で改めて何十年も払い込まないとまともに老後を送れない年金制度と比べると、フリーライダーへの防御機構を考えなければならないと気づいた。全世界が一気にベーシックインカムの制度を導入するとは思えない。一部の先進国が先にベーシックインカムを導入するのあれば、これまで全くその国と関係のなかった人々が大流入することは想像にかたくない。フリーライダーが増えればどこかで制度破綻する。ローマ帝国の無産階級の存在、蛮族の流入はよくよく歴史の展開として記憶に留めるべき。

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繰り返すが、現在の年金制度、健康保険、所得税などの税制などは、国民と居住民、長期滞在者の福祉のおけるフリーライダーの排除という面ではよく機能している。ここがまたお役所の機能肥大につもつながっているので、ベーシックインカムだという議論はフリードマン以来よくよくされている議論。

長期的に見れば私が健康寿命として生きていられるである20年あまりの間に汎用人工知能が仮に開発されたとしても、国家体制をゆらがせるところまでの問題となるとは思えない。ケインズはまったく正しい、我々はみんな死んでいる。