HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

「ファクトフルネス」が指摘するデータに基づいた冷静な判断の重要性

以前から周囲に統計は大事だ、統計は勉強しておこう、判断の基本には数字をベースにしようと呼びかけてきた。しかし、ここまで徹底しては考えていなかった。

もう解説は行き届いているのだと思うので、一般論は書かない。今のコロナ騒動の中で注目したのは2014年の西アフリカでのエボラの現場の話しだ。作者は医師であ、しかも感染症対策の最前線で医療にあたっていたらっしゃった。

世界保健機関(WHO)とアメリカ疾病予防管理センター(CDC)が公表していた「感染の疑いのある人」のグラフは、かなりあやふやな数字が基になっていた。「感染の疑い」とは感染が確認されていないということだ。元データはとにかく問題が多かった。たとえば、ある時点でエボラの疑いありとされ、結局エボラ以外の病気で亡くなっていたことがわかってもまだ、「感染の疑いのある人」として数えられていた。エボラへの恐怖が増すにつれ、誰もが疑わしく見えてきて、「感染の疑いのある人」の数もますます増えた。エボラへの対処が忙しくなると、日常的な医療はおろそかになり、普通の病気の治療が追い付かず、エボラ以外の原因で亡くなる人がどんどん増えていった。

(中略)進捗を測れなければ、自分たちの対策が効いているのかどうかわからない。だからわたしは、リベリアの厚生省に着くとすぐに、感染が確認された人の数を聞き出して、全体像をつかもうとした。血液サンプルは別々の4つの研究室に送られていて、それぞれの研究室の記録はエクセルに乱雑に打ち込まれていた。しかし、まだ4カ所の数字は集計されていないことが、その日のうちにわかった。その頃、リベリアには数百人もの医療関係者が世界中から集まり、ソフトウェアの開発者は役にも立たないエボラアプリを開発し続けていた(開発者はアプリという「トンカチ」で、エボラという「くぎ」を必死に叩こうとしていた)。しかし、そうした対策が効いているかどうかを測っている人はいなかった。許可を得たあとで、ストックホルムにいるオーラに4つのエクセルの表を送った。オーラはその表を整理して、手作業で集計した。そこで奇妙なことを発見したオーラは、もう一度同じ手順を繰り返して間違いがないかを確かめた。オーラは間違っていなかった。危機が差し迫っていると感じたら、最初にやるべきなのはオオカミが来たと叫ぶことではなく、データを整理することだ。

誰もが驚いたことに、集計されたデータを見ると、感染が確認された人の数は2週間前にピークを打ち、それ以降は減っていた。逆に、感染の疑いのある人の数は増えていた。一方、現場ではリベリアの人たちの習慣を変えることに成功し、人々は必要のない接触を避けるようになっていた。握手もハグもしなくなっていたのだ。生活習慣の変化に加えて、店舗、公共の建物、救急車、病院、葬儀場、それ以外のあらゆる場所で衛生管理を徹底したことの効き目が出始めていた。対策は効いていた。でも、オーラがその表を送ってくれるまで、誰もそれに気づいていなかった。わたくしたちは明るいニュースに喜び、仕事に戻った。対策が功を奏していることを知って、ますますがんばろうと背中を押されたのだ。

少少長いが、まさに今の現状と重なるので引用させていただいた。過剰に恐れるのではなく、正しく恐れることが肝要なのだと。マスメディアとウェブの発達した今だからこそ起こるインフォデミクス、感染症怖さで検査シーヤ派絶対主義と化し過剰な検査を行って起こるケースでミックスは今回の新型コロナがデビューではないと。

2009年には、豚インフルエンザが流行した。その年の最初の数カ月だけで、何千人もの人が亡くなった。どのメディアも2週間にわたって、豚インフルエンザを報じ続けた。しかし、2014年のエボラ出血熱と違い、豚インフルエンザの感染者は倍増しなかった。それどころか、感染者のグラフは直線にすらならなかった。感染情報が初めて報じられたときは、とても危険であるかのように思われたが、データを見ればそうではないことは自明だった。

にもかかわらず、メディアは数週間にわたって危機感を煽り続けた。呆れ果てたわたしは、データを見てみることにした。報道される回数に比べ、実際の死亡者数はどうなっているか。まず、ある2週間のあいだに、3人が豚インフルエンザで亡くなった。一方、グーグルで関連ニュースを索してみると、同じ期間で5万3442件の記事がヒットした。ひとつの死につき、8176件の記事が書かれたことになる。

さらにわたしは、同じ2週間のあいだに、結核で亡くなった人も計算した。結果は約6万3066人。このうちのほとんどはレベル1と2の国の人だった。近年、結核は治る病気になったが、レベル1や2の国ではいまだに死亡する人が多い。豚インフルエンザと同じく、結核感染症であり、細菌が薬への耐性を持てば、レベル4の国でも多くの人が亡くなるだろう。にもかかわらず、結核の死亡者ひとりに対して、ニュース記事はその10分の1しか書かれていない。つまり、豚インフルエンザによる死は、同じくらい悲惨な結核による死に比べて、8万2000倍の注目を浴びていた。

正しく恐れるためには、謙虚にデータを向き合うことだと改めて。

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ネタバレは避けたいが、作者のハンス・ロリング氏は身をもってこの大切さを示してくださった。遺志をつぐオーラさんとアンナさん、そしてギャップマインダー財団を心から応援した。

www.gapminder.org

引用ばかりのエントリーで申し訳ない。あとでもう少し整理したい。