HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

伝染病と人権

とにかくコロナウィルスについて片っ端から学べるものは学ぼうと、前回のSARSについて書かれたブックレットを読んだ。残念ながらウェブで得られる知識が多かった。

SARSは何を警告しているのか (岩波ブックレット)

SARSは何を警告しているのか (岩波ブックレット)

感染症法」の制定については興味深いものがあった。

感染症法は、一九九九年四月一日に施行されたが、種々の手続きのために施行までに約二年八月の年月を要した。まず、一九九六年八月、当時の感染症対策の中心的役割を果たしていた「伝染病予防法」(一八九七〈明治30)年制定)の見直しの是非を議論するため、当時の厚生省の公衆衛生審議会伝染病部会の下に、「基本問題検討委員会」をつくった。本書の著者の一人、竹田は同委員会の委員長として、議長を務め、報告書のとりまとめをしたので、当時の議論を振り返ってみたい。
約一年半、延べ約五〇時間にわたった委員会の議論のなかで、議論の対象となった大きな課題が二つあった。その一つが、「患者の人権尊重を優先するのか感染拡大の防止を優先するのか」であり、もう一つは「感染症対策は国が主導か都道府県が主導か」であった。伝染病予防法が制定された一八九七(明治三〇)年当時の対象となった感染症(=伝染病)は、コレラ赤痢、腸チフス、痘瘡、発疹チフス、猩紅熱、ジフテリア、ペストの八疾患で、いずれも当時の国民の生命を脅かしていた伝染病である。
こうした伝染病の制圧を目的とした伝染病予防法は、社会防衛の色濃いもので、患者の人権を無視する数々の規程が含まれていた。たとえば患者は伝染病院に強制的に隔離されたが、病院の施設は一般病院に比べるべくもないほどに貧弱であった。避病舎』とも呼ばれた施設には、医師、看護師が常在しない所もあった。
患者が出た場合の交通遮断、集会の禁止、さらには患者が住んでいた家屋の焼き払いまでもが規定されていた。

旧来の人権無視の明治の法を近代的に改訂したのが「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」、感染症法となる。

www.seirogan.co.jp

平成十年法律第百十四号 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律

(中略)

第一条 この法律は、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関し必要な措置を定めることにより、感染症の発生を予防し、及びそのまん延の防止を図り、もって公衆衛生の向上及び増進を図ることを目的とする。
(基本理念)
第二条 感染症の発生の予防及びそのまん延の防止を目的として国及び地方公共団体が講ずる施策は、これらを目的とする施策に関する国際的動向を踏まえつつ、保健医療を取り巻く環境の変化、国際交流の進展等に即応し、新感染症その他の感染症に迅速かつ適確に対応することができるよう、感染症の患者等が置かれている状況を深く認識し、これらの者の人権を尊重しつつ、総合的かつ計画的に推進されることを基本理念とする
(国及び地方公共団体の責務)
第三条 国及び地方公共団体は、教育活動、広報活動等を通じた感染症に関する正しい知識の普及、感染症に関する情報の収集、整理、分析及び提供、感染症に関する研究の推進、病原体等の検査能力の向上並びに感染症の予防に係る人材の養成及び資質の向上を図るとともに、社会福祉等の関連施策との有機的な連携に配慮しつつ感染症の患者が良質かつ適切な医療を受けられるように必要な措置を講ずるよう努めなければならない。この場合において、国及び地方公共団体は、感染症の患者等の人権を尊重しなければならない。
2 国及び地方公共団体は、地域の特性に配慮しつつ、感染症の予防に関する施策が総合的かつ迅速に実施されるよう、相互に連携を図らなければならない
3 国は、感染症及び病原体等に関する情報の収集及び研究並びに感染症に係る医療のための医薬品の研究開発の推進、病原体等の検査の実施等を図るための体制を整備し、国際的な連携を確保するよう努めるとともに、地方公共団体に対し前二項の責務が十分に果たされるように必要な技術的及び財政的援助を与えることに努めなければならない。

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=410AC0000000114

ボールドは本ブログ

つまりは、体裁としては人権を擁護し、近代的なものとなったが、米国のCDCのように一括して対応する機関は示される、伝染病が発症した場合責任がどこになるかは、不分明なままな体制なのだと言える。

CDCは1946年に創設され、アメリカ国内・国外を問わず、人々の健康と、安全の保護を主導する立場にあるアメリカ合衆国連邦政府機関。健康に関する信頼できる情報の提供と、健康の増進が主目的である。結核など脅威となる疾病には、国内外を問わず駆けつけ、調査・対策を講じる上で主導的な役割を果たしている[2]。

本センターより勧告される文書は、非常に多くの文献やデータの収集結果を元に作成・発表されるため、世界共通ルール(世界標準)とみなされるほどの影響力を持ち、実際に日本やイギリス等でも参照・活用されている。未知のウイルスや感染症などを題材にした映画や小説に登場することが多い。

アメリカ疾病予防管理センター - Wikipedia

このままでは今回の新型コロナウィルスのように、国際的な脅威が起こった時に対応できないのは当たり前だろう。今後、見直されることを期待したい。厚労省の省庁間での地位の向上はこういうところからスタートするのでは?