ジャック・アタリ氏が日本経済新聞のインタビューに答えた記事は何度も読み返している。ここにこそ「アフターコロナ」がある。
――人類史的にみて新型コロナはどんな意味を持つのでしょう。
「権力の変容が起こるとみている。歴史上、大きな感染症は権力の変容を生んできた。例えば15世紀ごろにはペストの発生を機に教会から治安当局に権力が移った。感染者を隔離するなどの力を持ったからだ」
「その後の感染症で、人々は科学が問題を解決すると考えるようになった。治安当局から医学への権力の移転だ。これまで我々はこの段階にいた。新型コロナの対策ではテクノロジーが力を持っている。問題はテクノロジーを全体主義の道具とするか、利他的かつ他者と共感する手段とすべきかだ。私が答える『明日の民主主義』は後者だ」
2019年、アメリカ合衆国で発生した暴動をきっかけに全世界で戦争と未知のウイルスが蔓延した「大災禍(ザ・メイルストロム)」によって従来の政府は崩壊し、新たな統治機構「生府」の下で高度な医療経済社会が築かれ、そこに参加する人々自身が公共のリソースとみなされ、社会のために健康・幸福であれと願う世界が構築された。
ハーモニー (小説) - Wikipedia
「大災禍」、「権力の移転」は、必ず騒乱を伴う。アタリ氏のおっしゃる15世紀にも象徴的な人物がいる。ペストで死んだ教皇の息子、チェーザレ・ボルジア。イタリアとしは大騒乱であった時代だと認識している。
短期的にはナウシカの清浄な地を求めて大海嘯そのものよりも多くの人が争って死んだという予言が実現しかねない。それでも、様々な方のCovid19に対する対応を拝見して人間の理性を心から信頼したいと改めて想った。コロナウィルスそのものでは人類は死滅しない。しかし、医療リソースから食料までパニックが起これば人類の絶滅のリスクは高まる。「復活の日」で「世界は二度滅亡する」のは小松左京が人間の狂気の面を描きたかった、描かざるを得なかったのだ。
アフターコロナ - HPO機密日誌
いま進行している「事態」においても、すでに各国のワクチン開発をめぐる競争状態になっている。しかも、少なくとも従来型のコロナウィルスでは免疫が時間とともに減少するという論文が存在するため、一度摂取すれば終わりという形にならないのではないかと考えている。
従来のコロナウィルスの免疫は時間とともに弱まるといわれていると聞きました。記憶ですが、新型でも従来型と遺伝上ではコンマ何パーセントかの変異にすぎないと。https://t.co/k63eFXugO7
— ひでき (@hidekih) 2020年4月14日
WHOの感染症専門家、マリア・ファンケルクホーフェ氏は記者会見で、中国上海市で行われた最近の研究から、「(回復後に)検出できるほどの抗体反応を示さなかった人もいれば、非常に高い反応を示した人もいたことが分かった」と説明した。抗体の量が少なければ、再び陽性になる恐れがある。韓国でもいったん回復してから陽性と診断された人が111人に達した。
新型コロナ、回復者に免疫あるか不明 WHOが警告 (写真=ロイター) :日本経済新聞
中国の「別のウィルス」を使ったというワクチン開発はそこまで見通したのではないかと。素人の推測だが。
軍事科学院軍事医学研究院の陳薇研究員のチームが開発を進めているワクチンは、新型コロナウイルスとは別のウイルスを遺伝子の運び役として使うもので、先月までに主に安全性などを確かめる第1段階の試験を終えて、主に有効性などを確かめる次の段階の試験を始めるためにワクチンを投与するボランティアの募集を今月から始めたということです。
新型コロナワクチン 中国が臨床試験の第2段階に進んだと発表 | NHKニュース
中国製のワクチンだけが定期的に摂取されなくとも効果があるとなると中国は経済的、軍事的にかなりの優位となるのでは?現実化するかは疑問をもってはいるが。逆に言えば、アビガンの効果を肯定する中国の論文が取り下げられたのは、ウィズコロナの時代で重篤化を妨げる薬の開発が進めば中国製ワクチンの独占がおびやかされると当局が考えたからではないか。
ハーモニーや、ナウシカのような大きな騒乱にならないことを祈る気持ちでいる。パンドラの箱からありとあらゆる悪と災が飛び出してきて、残ったのは「虚しい希望」であったというのは、「希望」こそが場合によっては騒乱の原因となるという隠喩ではないだろうか。
■追記
記事を書いて、たまたま拝見したこのツイットを見て、「銃・病原菌・鉄」で描かれた世界観にかけているのは、強力な政府ではないかと。
英国での死者総数が12000名を超しました。1日で既に1000名以上が死んでます。100年前のスペイン風邪では全世界で4〜5000000人が亡くなりそれをキッカケに政府は厳しい法律設定権を引く事が出来る様に特別制度が設定され罰金や牢獄入など出来るようになった。
— kontani sotoyoshi 書道師範・強靭体力 (@Sharoinhealing) 2020年4月14日
銃に対抗する正規軍を整備、維持する政府の徴税権、鉄を使った船舶の開発運航に関わる政府の投資、伝染病を制御する国民への警察権など。その意味で、アタリ氏の見解は実に歴史を踏まえたものであることに気付かされる。疾病による歴史の断絶はないとどこかで書いた自分の不明を恥じる。