マット・リドレーは、昨日のリベラルファシズムと同様、リベラル、社会主義の非自由主義的側面、特に優生学への傾倒を非難している。リドレーは、科学啓蒙的な著作を明らかにしていく中で、自由主義こそがイノベーションの源泉であり、進化の源であるとの考えに至ったのではないだろうか。リドレーの人々の知見、科学技術、社会、政治における「一般進化」の原則を私なりにまとめると以下となる。
1.「進化」の前提である「変化」を一定の「群」の中で伝達、共有できる仕組みがある。
進化とはなにか? - HPO機密日誌
2. 科学技術、政治、宗教、インターネットなど科学者・哲学者、政治思想家、神、デザイナー・アーキテクトなど「誰か」が一定の方向にロードマップを示す存在*1を仮定しがちだがそれは間違い。進化の方向を定めた特定の人物、存在はない。
3. 大きな「進化」の変化がある前には、その「進化」が可能となる知見、技術、潜在的要素が必ず「群」の中で準備されている。
これらの原則を成り立たせるために、人々の自由が大前提となる。抑圧された社会、全体主義的統制社会では、この三原則は機能しない。
リドレーは、社会主義的統制の極みである優生学について検証を行っている。現代の我々は忘れがちだが、19世紀は限りなく自由な社会、世界であったが、進化論以降「リベラル」が次第に全体主義、ファシズム的な色彩を持っていく時代であった。昨日の「リベラルファシズム」への流れがそれだ。
よって、ユダヤ人、身体障害者の虐殺はナチスの発明だと思われがちだが、その根はもっと深い。そして、つい最近まで「家族計画」、「優生学」の名前によって私達の身近にあった。
優生学的政策はナチが初めてでも、最後でもありません。ダーウィンの息子が国際優生学会議を1911年に主催しています。国連家族計画という優生学思想に基づき人口抑制を目的とする国連機関もあります。
— ひでき (@hidekih) July 28, 2018
忘れられてはならないことだと私は思うのだが、リベラリズムが優生学的政策へと傾倒した背景にはダーウィンの進化論があった。
1871年にダーウィンは『人の由来と性に関連した選択』で多数の証拠を提示して人間と動物の精神的、肉体的連続性を示し、ヒトは動物であると論じた。そしてクジャクの羽のような非実用的な動物の特徴を説明する性選択を提案し、ヒトの文化進化、性差、身体的・文化的な人種間の特徴を性選択によって説明し、同時にヒトは一つの種であると強調した。
チャールズ・ダーウィン - Wikipedia
リベラリズムは「種としての人間」の進化を信じるあまり、家畜と同様、人間も種の選択によって改造可能であると考えたのだろう。私経ちの知るチャールズ・ダーウィンの息子である、レナード・ダーウィンは「国際優生学会議」を主催した。この流れは、二十世紀の前半においてアメリカにおいて「知的障害、精神異常、犯罪習慣、てんかん、アルコール依存、疾病、視覚障害、奇形、そして薬物障害などの問題のある者に対する強制的不妊手術を認める法律」へと結びついた。さらには、日本の「家族計画」、産児制限運動にも影響を与えたサンガー女史に至っては黒人の抑制策まで提案したと、リドレーは「進化は万能である」に書いている。
進化は万能である──人類・テクノロジー・宇宙の未来 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
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61歳から優生学の論客となり、フランシス・ゴールトンの後を継いで優生学教育協会の会長となる。ゴルトンは父親チャールズ・ダーウィンの従兄である。1926年に The need for eugenic reform, 1928年に What is eugenics? を出版して、優生学のスポークスマンとして一定の影響力を持った。
レナード・ダーウィン『優生學とは何か』(1937) - akihitosuzuki's diary
サンガーは社会哲学の一つである(現在では疑似科学として批判されている)優生学の唱道者であった。優生学によると、人類の遺伝的資質は社会的介入によって向上させることができる。「遺伝的に不適当な」人物をターゲットとして優生学者がすすめた社会的介入法としては、選択的な生殖、断種、安楽死が含まれた。例えば1932年にサンガーは、「悪い家系」を断つための断種と隔離を行う「強固なポリシー」について触れている。
マーガレット・サンガー - Wikipedia
これは戦後の中国における「一人っ子政策」等へと続いていく。「リベラル」さえもその時代の価値観を含んでいることを忘れてはならない。