HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

親の責任と遺伝

マット・リドレーは、繰り返し「氏より育ち」を否定してきている。前著「やわらかな遺伝子」の原題、"Nature Via Nurture: Genes, Experience, and What Makes us Human"は、「育成を通しての本質(発言):遺伝、経験、そしてなにが私達を人にするか?」(試訳)と直訳できる。

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そして、双子研究方を通して遺伝的要素が大概の人間の要素で強く影響するのだと。ある遺伝子の保持者は、どんな劣悪な環境でも狂気、鬱に陥らないのだそうだ。*1

更に「進化は万能」においては、ジュディス・リッチ・ハリスの著作に触れて、マット・リドレーは「氏」の優位さを強調している。

本書に序文を寄せた進化心理学の世界的権威スティーヴン・ピンカーはその一人だ。本書は心理学史の転換点となるだろうと評した彼は、親はさほど重要ではないという証拠は実際に存在するとし、「それらが存在しないふりをするのはそれらがあまりにショッキングだからだ」と喝破した。また本書でたびたび登場する心理学者デイヴィッド・リッケンは、「本書は何百人もの発達心理学者を不安に陥れるだろう」と語り、実際「誕生からの数年間で成人後の性格が形成されるという明確な証拠を探し求めても(心理学者たちは)それを呈示することはできない。なぜならそのような事実は存在しないのだから」と断言している。教育プログラムを助成するジェイムズ・S・マクドネル財団のジョン・ブリュアー会長(当時)は「幼少時の親子関係が決定的かつ長期的な影響を及ぼすという思いこみを考え直すことが必要だったのだ」とハリスの功績を称えた。

ジュディス・リッチ・ハリス『子育ての大誤解〔新版〕』訳者あとがき – 橘玲 公式BLOG

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子育ての大誤解〔新版〕上――重要なのは親じゃない (ハヤカワ文庫NF)

子育ての大誤解〔新版〕上――重要なのは親じゃない (ハヤカワ文庫NF)

子育ての大誤解〔新版〕下――重要なのは親じゃない (ハヤカワ文庫NF)

子育ての大誤解〔新版〕下――重要なのは親じゃない (ハヤカワ文庫NF)

ハリスの主張には賛否両論あるとは言え、多くの親に「完璧でなくてもいいんだ」と安心させる効果はあると考える。私にも何人かの子供がいるが親としては全く同じ様に接しているつもりなのに、性格等、それぞれまったく違う。まあ、だから子育ては面白いとも言えるのだが。

ここに「ストレス耐性遺伝子」の話しを加えて、では子供を劣悪な環境で育てていいとなることには多くの反論があるようだ。ハリス自身も「彼女の本が両親のネグレクトや虐待を支持しているという見方を拒絶する」と主張している。

ちなみに、リドレーによると「ハリスは性格等の半分は遺伝的要因、残りの半分は子供自身の社会的地位による」としているという。グループ内での序列が親よりも子供の性格に大きな影響を及ぼすというのだ。にわかには信じがたいし、「親」も子供の「序列」に組み入れられているとは思うのだが。

*1:実は、ストレス耐性遺伝子を見たくて遺伝子検査までした。結果私は陰性だったようだ。凡庸な自分を改めて自覚した。[hpo.hatenablog.com