HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

「あなたの体は9割が細菌」

私達の存在はいかに自分が考えている「自分」ではないかが伝わった。

思考力が低空飛行していてなかなかブログのエントリーを書けない。このエントリーはほぼ一ヶ月ぶり。プライベートでも、仕事でも、人生というのは本当に自分の思い通りにはいかないのだと思い知らされている。まあ、しかし、自分の体全体として捉えた遺伝的多様性で言えば「自分」の「ヒト遺伝子」は1割にすぎないのだと言われれば、そりゃあ自分自身ですら思い通り制御できるわけがないのだと納得させられる。

本書の企図は、原題の"10% HUMAN :How Your Body's Microbes Hold the Key to Health and Happiness"で十分に説明されている。「いかに体内の微生物が健康と幸福の鍵を握っているか?」と。体内の嫌気性微生物などが私達の健康の鍵であるかは、テレビのコマーシャルを見ているだけでも伝わる。ずいぶん以前から栄養学でも腸内微生物の栄養素となう食物繊維の大切さは訴えられてきた。小腸では吸収できない植物繊維の栄養素が大腸の微生物にとってなによりのごちそうなのだと。大腸微生物、「大腸菌」というと水質汚染の指標に使われるくらい偏見をもって見られてきたが、その名の通り私達の腸内で重要な役割を果たしているのは間違いない。小腸は自力で消化、吸収しているが、大腸は微生物の協力なくては働かない。腸内の微生物バランスは自分の健康にとって重要なのだと。著者のアランナ・コリン氏がTEDで抗生物質の不適切な投与が体内、特に腸内の微生物バランスを崩していることを指摘している。いわく、家畜を太らせるために抗生物質が投与されているように人間も腸内微生物バランスを崩すと肥満につながると。当然、ほかの病気にも影響する。

www.ted.com

ちょっと意外だったのは、微生物が健康に影響するばかりでなく、微生物、細菌の類がその人の思考傾向まで影響しているという指摘だった。確かに一部の細菌、キノコは昆虫や、動物を狂わせることは知っていた。冬虫夏草などはよい例であると。

gigazine.net(ちょっとグロなので閲覧注意)

昆虫に寄生する植物としては冬虫夏草などがよく知られていますが、アリに寄生して発芽するOphiocordyceps属の一種は、宿主の精神を乗っ取って生存に有利な場所に移動させ、最も適した時刻に宿主が死ぬように操作するという特性を持っていることが分かりました。

人間においても腸内の微生物バランスが思考力や、感情まで左右する可能性があると本書は指摘している。一部の自閉症抗生物質の投与が原因である可能性があると。腸と性格、人生の幸せまで関連しているのだとするともう現代版の陰陽五行説の世界に思える。

hpo.hatenablog.com

脾(胃腸)が弱かったり、傷害がある人は、顏色は黄色を帯びています。日頃より物事を思い過す性格ですが、よく物忘れをします。唇が厚く時々熱っぽく腫れたりします。甘い味が好きで、病気は四季の土用に属し、俗にいう季節の変わり目(季節と季節の変わり目の18日間)に体調を崩しやすいのです。

http://www.ikkando.com/kanpo-kiso/riron-kakuron.htm

本書の後半では出産、子供の健康と体内の微生物の話題となる。母親から健全な体内微生物の「セット」を譲られることがその後の健康に重要なのだと。母乳の中に母親の腸内の微生物が含まれいてるのだと。母乳が腐りやすいことは知られている事実だが、その理由が母親から乳児への腸内微生物のプレゼントの副作用だとは知らなかった。

母乳栄養では、感染のリスク、肥満、2型糖尿病の発症を低下させることが示されています。

赤ちゃんを感染から守る母乳の免疫。ミルクで免疫力はつかないのか|子育て情報メディア「KIDSNA(キズナ)」

出産において母親の膣内の微生物を「浴びて」新生児が生まれてくるところからこのプロセスは始まっていると本書は指摘している。もっと言えば、出産口である膣と肛門が近くにあることさえも広く動物において母親から新生児、あるいは卵へという形で自分の微生物を「譲る」ために進化しきたのだと。もう感服するしかない。

新型コロナウイルス感染が全世界的な課題とされる今、本書を読むと体内微生物を含めた体の免疫機構とはなんなのかと問いたくなる。身体全体の遺伝的多様性の1割にすぎないヒト遺伝子による機構だけで免疫を議論するのは、残り9割の体内微生物をふくむ身体全体としての免疫力を軽視することにならないだろうか?ヒトの「たくましさ」を失わせることにならないだろうか?

hpo.hatenablog.com

体内の微生物バランスが変わりうるもの、人から人へ影響が受け継がれていくものだという事実に少々心当たりがあるのだがあまりにプライベートな体験なのでここにはかかない。自分の9割である体内、腸内細菌とはこれからも仲良くしていきたいものだ。