HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

「クララとお日さま」

一気に読んだ。どきどきしながら読んだ。カズオ・イシグロ作品初読了。

クララとお日さま

クララとお日さま

インタビューに心惹かれた。インタビューの感想エントリー後、すぐにAmazonから購入した。

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この物語は子供のためのAIの友達、AF(Artificial Friend)が実現された近未来。AFであるクララが語った物語。ここに大きなポイントがある。子供視点なので全容はわからないが教育は遠隔が当たり前になり、たぶん遺伝子操作を含む「向上処置」が当たり前になっている。背景には、まるで新型コロナ騒動を予見したような大きな社会変動があるように見える。もしかすると、ベーシックインカムが実現しているのかもしれない未来。それでも、社会的な分断はいまよりもっともっと進んでいると。

正直、イシグロ氏の「感情優先社会の危うさ 」の展開を期待して読んだのだが、私には本書と「感情優先社会」をつなぐ補助線がみつからなかった。少々、死を身近に感じることがありここに描かれる死との境界線の物語に強く共感はした。

とすると、本書の問題は「自分を自分たらしめている『もの』はなにか?」という問題に行き着く。AFであるために観察深く「作られた」クララと「魂を持つ」とされる人間になんの差があるのだろうか?人間のテクノロジーで作られたものと自然に形成されたものとの差はますます近づいてく。それでも、ひとつも人間は幸福にはならないのかと。自己家畜化してくばかりで、その社会的なフレームワークの中でしかいきられない。環境に特化して繁殖するあまり自然環境からすれば「ひよわ」になっていくばかりなのかと?

男は女を、女は男を、「有益化」し、「家畜化」してきたのが人類の歴史なのだと。人類はすでに「家畜」であるがゆえに「文明」という牧場、「政府」というカウボーイ(cow poerson?)なしでは生きられない。

「赤の女王」が人類を自己家畜化 - HPO機密日誌

もしかすると意図的に主体的な「意識」を子供のままのレベルに押さえられていると予測されるAF、人工知能、クララによって語られる物語しか私には読めていないので、本来のたぶんもっともっと悪意に満ちた物語へのヒントが本書にはちりばめられているのかもしれない。機会があれば、今度こそ「日の名残」に挑戦してみたい。

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■追記 20210317

もしかするとこれはクララが自分の人生を振り返って「よく(善意に)」解釈できたという物語なのかもしれない。お日さまの奇跡はクララがそう解釈しただけかもしれない。クララと向上処置されていない幼馴染は分かれるしかなかったのかもしれない。人生はその終わりにあたって「よく」自己解釈、納得できるかしかないのかもしれない。

■追記 同日 その2

なんと作者自ら作品の本質を語っていらっしゃった。

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