HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

決裁文書とE-Discovery

「おい、この決裁書、土地の地番が違っているぞ。」

突然、上司に指摘された。

「早いところ、修正して、差し替えておけ」

こんなやりとりを何度経験したかわからない。

20数年前、当時努めていた会社で、四半期に一回くらいは自分のミスで決裁文書の差し替えをした。そもそも、その会社の当時の決裁書はひもで綴られいて、社長の決裁をもらっていても誰でも中身を差し替えようと想えば、差し替えられる体裁となっていた。決裁書の書き換え、差し替えが刑法の対象となるなら、私はかなりの回数逮捕されていたはずだ。

NHKにいま話題の森友学園をめぐる決裁文書の写真が出ていた。

NHK 180309

森友学園 問題の決裁文書とは(時系列で) | NHKニュース

うっすらと紐で綴られていた跡がみえる。


NHK 180309

NHKは決裁書を公文書だと断言している。

今回、問題になっている財務省の決裁文書は近畿財務局が森友学園に対して大阪・豊中市の国有地を貸し付けるにあたって平成27年4月に作成した「貸付決議書」と、その後、売却するにあたって平成28年6月に作成した「売払決議書」で、それぞれ10年と30年の保存期間が指定された公文書です。

規定を調べてみた。

公文書等とは
 「公文書等」とは、(1)行政文書、(2)法人文書、(3)特定歴史公文書等をいいます(公文書管理法第2条第8項)。

◆ 行政文書
行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているもの(公文書管理法第2条第4項)

総務省|公文書管理

公文書管理法の条文で、行政文書について下記のように規定されている。

第四条 行政機関の職員は、第一条の目的の達成に資するため、当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け、又は検証することができるよう、処理に係る事案が軽微なものである場合を除き、次に掲げる事項その他の事項について、文書を作成しなければならない。
一 法令の制定又は改廃及びその経緯
二 前号に定めるもののほか、閣議、関係行政機関の長で構成される会議又は省議(これらに準ずるものを含む。)の決定又は了解及びその経緯
三 複数の行政機関による申合せ又は他の行政機関若しくは地方公共団体に対して示す基準の設定及びその経緯
四 個人又は法人の権利義務の得喪及びその経緯
五 職員の人事に関する事項

e-Gov法令検索

土地を売るなり、貸すなりする決裁書が、公文書管理法に指定される公文書であるとは私には思えない。百歩譲って、公文書であったとしても、ひもで綴られ、差し替えが自由にできる形式にしてあること自体が訂正等があれば、差し替えることは普通に行われていることを示している。

とはいうものの、行政の仕事のトレーサビリティは担保されるべきなので、これを機に行政機関はすべてクラウド文書管理、Google社のG Suiteに切り替えるというのはどうだろうか?作成されたすべの文書の、すべての訂正が記録され、すべての版をいつでも確認することができる。

hpo.hatenablog.com

G Suiteでは、e-discovery機能も提供されている。

電子(的)情報開示(でんし(てき)じょうほうかいじ)、電子(的)証拠開示(でんし(てき)しょうこかいじ)、あるいはeディスカバリ(ー)(Electronic discovery、e-discovery)は、民事訴訟における証拠開示(discovery)であって、電子的に保存されている情報に関するものを指す。ここで電子的に保存されているとは、情報が電子的な媒体(磁気ディスク、光ディスクなど)に記録されているという意味である。

電子情報開示 - Wikipedia

契約はメールで送信しあうだけでも、有効なのだと弁護士が言っていた。同様にして、電子的に決裁書が作成され、承認されていればすべてのプロセスを明示でき、こんなに国会が空転することもなかっただろう。民間ではわりと当たり前になりつつあるので、ましては優秀な方があつまる行政機関においてできないわけはないだろう。


■追記

公文書かどうか、偽造があったとか深刻な事態ですらなく、単なる朝日新聞誤報にすぎないようだ。情けない・・・。


■追記 その2

追記をした後、衝撃的なニュースが入ってきた。

kabumatome.doorblog.jp

本エントリーの「追記」については自分の不明を恥じるほかない。

はてなブックマークで、コメントをid:vanbraamさん、id:coperさんからいただいた。自分の思考を説明すべきだと想う。

基本的に、法律の条文とは総則的なものから始まって、次第に具体化していく書き方になっていると理解している。また、特殊法の法が一般法より優先して適用されると理解する。この原則に則って公文書偽造かどうか判断するにあたって、まずあたるべき公文書管理法第2条第4項。

第二条(中略)
4.この法律において「行政文書」とは、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書(図画及び電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。以下同じ。)を含む。

e-Gov法令検索

第二条は、上に引いた公文書法第4条で限定されると私は考えた。同様に刑法第155条も限定を受けると考える。

第155条
1.行使の目的で、公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造した者は、1年以上10年以下の懲役に処する。

刑法第155条 - Wikibooks

同じく「公務員の作成すべき文書」とは、公文書法4条に限定されるべきであると。土地の売買に関わる決裁書はあくまで内部資料であり公文書法に定める行政文書にはあたらないと思考する。

今回の告発も、公文書ではなく、公用文書とされている。

学校法人「森友学園」への国有地売却を巡り、大阪地検特捜部は公用文書毀棄(きき)などの容疑で佐川宣寿・前財務省理財局長に対する告発を受理している。

森友問題:佐川氏を聴取へ 大阪地検特捜部 - 毎日新聞

公用文書等毀棄罪(刑法第258条)
公務所の用に供する文書又は電磁的記録を毀棄した者は、3月以上7年以下の懲役に処する。

文書等毀棄罪 - Wikipedia