20年前まだ私がまじめな認知科学の徒であったころ「知るということ 認識学序説」という本をかなりの時間をかけてよんだ。「みにくいアヒルの子の定理」などコンピューターとのアナロジーが基本にある認知心理学と通底する議論を高度な言葉と数式で展開されていた。その10分の1も理解することができなかったが、強く印象に残る本であった。
- 作者: 渡辺慧
- 出版社/メーカー: 東京大学出版会
- 発売日: 1986/06
- メディア: ハードカバー
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多分、5、6年ほど前、アマゾンを使い始めたころに渡辺先生の「時」という貴重な本を発見して手に入れた。当時、仕事でいっぱいいっぱいになっていた私は、この本を数ページめくっただけで積読するばかりであった。
- 作者: 渡辺慧
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 1974/01
- メディア: 単行本
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昨年、ブログ界隈で時間に関する議論があった。その議論の中で、「時間の矢」という本を知った。全くわからないながら、用語だの、基礎知識などをネットで調べながらとにもかくにも目を通した。
時間の矢 コンピュータシミュレーション、カオス―なぜ世界は時間可逆ではないのか?
- 作者: ウィリアム・グラハムフーバー,William Graham Hoover,志田晃一郎
- 出版社/メーカー: 森北出版
- 発売日: 2002/04
- メディア: 単行本
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ま、最後のころまで来て巻末にちゃんと用語集があったというオチまでついたのだが、時間に関して非可逆であるということと極小のカオス、フラクタルという現象が深く結びついているのだということ程度は理解した。
用語を調べて中で改めて渡辺慧先生についての言及を発見した。
物理学者であった渡辺慧は、物理学者の眼で、深くそして適正に事物の本性を見極めた学者であったようです。そうであるが故に、複雑系科学に通底する科学理論をものした物理学者であり、物理帝国主義を根本的に否定したように私には思われます。
ちなみにはてなキーワードにも「渡辺慧」を発見!ネタはいっぱいあるから、加筆したい。
やはり、もっともっと評価されるべき人なのだと信じる。
特に「時」の中で語られる「輪廻と微小輪廻」という概念は、「時間の矢」の議論と非常に通じるものを感じる。カオスというのは、非常に軌道の長い周期現象としてとらえることができるということなのだが、粒子から見れば非常に長い時間であるが、人間という主体の時間感覚からいうと微小な時間である中で、「長い軌道」が描かれているために、時間の非可逆性があるのだと渡辺先生は書いている。これは、「時間の矢」の著者である、フーバーと基本的に同じ考え方ではないのだろうか?
数十年にわたる研究生活で得た私の見解を一言でいえば,熱力学の第二法則は,あまねく現れる時間対称性の破れで説明するのが,もっともわかりやすい.その破れは,環境と結合したカオス系の力学といつでも関係している.今では,コンピュータシミュレーションでみられる「カオス」と対称性の破れが,「自然」のもつカオスと非可逆性を理想化したものであることは確実である.ここでのシミュレーションは,古典論によるもので,相対論的ではない.精度も有限で,値は離散的である.それにもかかわらず,数値的につくられる「疑似カオス」は,数学者が心の中で理想化したものや,実験家が実測したものとほとんど同じであることがすでに確かめられている.
http://www.morikita.co.jp/mokuji/1530.html
冷たい方から熱い方への熱の流れがもつ強いフラクタル不安定性こそ、時間平均した流れにおいて、つねに熱力学第二法則が成り立つ原因である。
ま、あまりに物理学に無知な私がとやかく申し上げることは、渡辺慧先生の業績に逆にどろをぬることになりかねないので、この辺でやめておく。