HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

ストイシズムとは理性主義のことだったのか?

ナシーム・ニコラス・タレブの「まぐれ」を読むのは、なかなか楽しかった。ストイシズム、ストア派とは理性主義のことだったなんて、知らなかった。

感情からの解放(理性主義)

あらゆる感情から解放された状態を魂の安定とし、最善の状態として希求する。当然、死に際しての恐怖や不安も克服の対象と考える。その理想としてよくソクラテスの最期が挙げられる。怒らず、悲しまず、ただ当然のこととして現実を受け入れ行動することを理想とする。

ストア派 - Wikipedia

本書の内容と本ブログのさまざまなエントリーに響き合うものを感じた。ウェブを通して様々な方との交流を通して、べき乗則や、人の理性の問題を考えてきたこのブログという活動に、社会的に認められうる価値があるのだと初めて知った。さまざまなテーマについてブログなどで書き散すこと、エクセルとにらめっこしながらシミュレーションを行ったことは、純粋に自分の好みのでやっていただけなのに。

私のバックグランドと本書の間にはも共通するテーマを感じる。例えば、本書にはエルゴード性の話しが何度も出て来る。この言葉に初めて触れたのは、大学時代に学んだ渡辺慧先生の認識論、パターン認識についての著作だった。原子物理学と認知科学というまれな研究フィールドをもたれていた渡辺先生こそ、タレブと互角に渡り合えたかもしれない稀有な日本人ではなかったろうか?

知るということ―認識学序説 (認知科学選書)

知るということ―認識学序説 (認知科学選書)

なんといったらいいか分からないが、なんとかの猫のように純粋に確率論に人生が左右される場面は意外に少ない。大数の法則エルゴード性によりものごとはなるようななる。そして、本書のあとがきでタレブが書いているように黄金率は厳然とある。人の創造性が発揮されるのに最適な場面と態度も存在する。それは渡辺先生の時間論や安冨先生の創発論が私の中でこだましているからかもしれない。

それにしても次作の「ブラックスワン」が楽しみだ。たぶん相当に読みにくそうなタレブの原著に挑戦するより、平明に随所にウィットを生かした望月衛さん*1の訳を待とうと思う。

*1:「ブルンバーグ」もその類なのだろうか?