HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

すべての制度設計は崩壊することを前提に行うべきである

組織や制度よりも人の方が長生きであることを前提に制度設計はなされるべきである。日本の平均寿命は80歳を超えているが*1、たとえば現在の金融制度はほとんど戦後あるいは70年代以降に設計されたものである。建築物に関して言えば、住宅の平均寿命は25年に満たないという発表もある*2

永続の象徴のように言われる建築物の設計、構造設計、構造計算においては、エネルギーの半分は、その構築物がどのように崩壊するかの探究に費やされる。

E-ディフェンス(E-Defense)は独立行政法人防災科学技術研究所が所管する、大型構造物の震動破壊実験を行う大規模実験施設(実大三次元震動破壊実験施設)。名前に冠される"E"はEarth(地球)を表す。一般的な日本の戸建住宅のほか、鉄筋コンクリート造4階建て程度の建物の震動破壊実験を行うことができる世界最大の耐震実験施設である。なお、施設のメインとなる実験棟の面積は約5,200?、高さ43mである。 施設は兵庫県三木市にある三木震災記念公園内にあり、2005年1月15日に竣工した。

E-ディフェンス - Wikipedia

*3

タレブ安冨歩、本山美彦は、共通して、どれだけ堅固なものに思えても、組織も、制度も、金融商品も、貨幣すらも崩壊するというということを根本的な問題として著作を書いている*4

金融権力―グローバル経済とリスク・ビジネス (岩波新書)

金融権力―グローバル経済とリスク・ビジネス (岩波新書)

安冨が以前から主著している「貨幣の崩壊」について前掲書の中で改めて書いていいる。数理的シミュレーションに基づき、数々ある商品の中からドミナントな地位を占めるようになり、貨幣としての機能を果たすようになる過程と、進化論的な変化の蓄積により崩壊していく過程を「貨幣の複雑性―生成と崩壊の理論」で見事に示した。当時は「創発」としていたこの過程を、チューリングの「協同現象」として、人間の根幹にかかわる力から湧き上がるとしてのポラニー流の「創発」とは区別してしている。が、この議論は本論の範囲を超える。*5

いずれにせよ、この三者は、きわめて現実的な「経済学」から出発し、人の生き方の問題にまで立ち返っている。タレブと安冨歩は人の学習能力そのものが人を様々なバイアスやハラスメントの生じる限界であるとし、黄金律、「己の欲せざるところ人に施すことなかれ」に到達している。本山も、前掲書の中で「とくに、経済学の一部門が金儲けの自由を硝酸するだけの実学に傾斜してしまった現在、きちんとした人間学を造り上げることが大事」であると主張している。*6

たとえば、中高層以上の建築物の構造設計に最も影響を与える地震の強度はべき分布している。正規分布などしていない。だからこそマグニチュードという対数で表示される。

In seismology, the Gutenberg-Richter law[1] expresses the relationship between the magnitude and total number of earthquakes in any given region and time period.

\!\,{\log N} = A - b M

or

\!\,N = 10^{A - b M}

Gutenberg–Richter law - Wikipedia, the free encyclopedia

今回のサブプライム問題がそうであるように、正規分布をもとにしたブラック−ショールズのような値付け理論では崩壊にいたるまでを考慮にいれた場合の金融制度は予測不可能であるばかりでなく、非常に間違ったバイアスに人を誘導する。タレブが主張するように、金融商品を販売する人たちの主張する安全率はまやかしにすぎない。崩壊するときは、どの部材、どの個所から崩壊するかを明確にしたうえ、そこに住む(所有する)人々を巻き込んでしまう崩壊形なのか、商品としての価値は失ってしまうかもしれないが、そこの住む(所有する)人たちが崩壊するだけの時間は存在を保ち続けられるのかを考慮すべきなのだ。

そもそも、ダンさんがおっしゃるとおり人の死にざまなんてそんじょそころにころがっているものなのだ。その死を直視しなければ、未来はデザインできない。

九相詩絵巻

別の言葉でいえば、その金融商品がたまたま4、5年良いパフォーマンスを示したからと言って、未来永続発展しつづけるデザインになっていることの証明にはならない。単に運が良かっただけにすぎない。運が良かったとは、進化論の指摘するように短期的な適応であり、進化とは呼べない。


世界が予測したようにはひとつも動かず、家も、お金も、社会制度の集積としての国家も、思ったほど堅固でないとすれば、私はどういきるべきなのだろうか?中国人のように、人もものも信用せずに生きるのか?伝統的な価値を信じて、回帰すべきなのか?すべてをあきらめて失望しきってしまうのか?

人間の根本の力をいかに発揮するかにかけるのか?

太古から受け継いできた、一般に本能や、直観、感情の総体として、人間のヒューリスティック現代社会において、そのまま適切な判断をくだせなくなっている。もう一度、我々は、いや、少なくとも私は人間の根源的な力を自力で発見し、それを発展させ、十分に現代社会で発揮させられるようにならなくてはならない。

そして、それは、私一人だけのことを意味するのではない。

■参照

なるほどぉ!やっぱり世界は広いなぁ。すばらしい!

まぐれ―投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか @ ハリ・セルダンになりたくて
真の「迷著」 - 書評 - まぐれ @ 404 Blog Not Found
まぐれ―投資家はなぜ、運を実力と勘違いするのか @ 池田信夫 blog
本「まぐれ 投資家はなぜ、運と実力を勘違いするのか」 @ 富久亭日乗
【書評・総論】エンデの遺言「根源からお金を問うこと」 by さかまたさん
モンテカルロ・ジェネレーター @ HPO
安冨歩「生きるための経済学 <選択の自由>からの脱却」を読む。 @ 日々一考(ver2.0)
安冨歩『生きるための経済学』  @ Economics Lovers Live

■追記

タレブのホームページからWSJの「ブラック・スワン」の書評を読んだ。びっくりするほど、power lawベキ乗則*7について書いてある。

The power-law distribution, by contrast, would seem to have little to recommend it. Not only does it disproportionately reward the few, but it also turns out to be notoriously difficult to derive with precision. The most important events may occur so rarely that existing data points can never truly assure us that the future won't look very different from the present. We can be fairly certain that we will never meet anyone 14-feet tall, but it is entirely possible that, over time, we will hear of a man twice as rich as Bill Gates or witness a market crash twice as devastating as that of October 1987.

Arts, Theatre, Movies, Music, Sports, Books, Food & Wine, Fashion, Travel & Events - Wall Street Journal - Wsj.com

訳をする元気は....、今ないなぁ。

*1:「世界各国の平準寿命」http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1620.html

*2:「アメリカの住宅平均寿命は44年、イギリスは75年! 日本の家が短命なワケ」http://allabout.co.jp/house/longlifehouse/closeup/CU20030731A/

*3:あえて、直接リンクしないが、E-ディフェンスの公式ページに記録されている中高層建物が崩壊していく様の動画は実に迫力がある。

*4:特に「まぐれ!」と「金融権力」はスタイルこそ大きく違うものの、「友と敵」理論的に言えばきわめて近い。また併読することにより、理解が深まるだろう。いや、堅固でないものを堅固に見せてしまうことが、人の悪の悪たるものだ。ハラスメントは信頼できないものを信頼させてしまうことにより生じるし、ほぼ意図的に株価や金融商品は見た目ほどしっかり考えられて売られていない。

*5:また、安冨もタレブもともにに深い深い失望を体験し、そこから復活を大変しているように思われる。また、タレブが実践し、本山が説明しているロングポジション、空売りについては、ガルブレイスの「ハーヴァード経済学教授―マーヴィン教授の富と野望のロマン」からすでに主張されているにも関わらずあいかわらずバブルは生じる。

*6:タレブの「まぐれ!」のあとがきで、先祖からの資産家と一代で築いた資産家についての議論が本を書き始めたきっかけだったと書いているのが彼の類推される生い立ちと合わせて考えると非常に興味深い。

*7:べき分布ベキ則、呼び方はいろいれあるが、あくまで物理学の中の言葉だ。これを「法則」と訳すからややこしくなる。私も大分だまされた。ああ、「べき乗則とネット信頼通貨」がなつかしい。