HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

生涯雇用が賃金を安く抑えている

あまりに当たり前のことに気づいた。

私は長年人事関係に仕事にも関わってきた。一時は上場企業の人事関係の仕事もしていた。バブル絶好調だった当時、業界のリーダーと言われたある会社の人事担当の論文に「激しい競争と選抜に残って我が社に入社した優秀な社員に40才頃まで処遇で差をつけることはモラール(士気)の低下をもたらすだけだ」と書いてあった。この会社では、昇進、給与に40才、課長職程度まで差をつけないことを自慢していた。バブル後の紆余曲折はあっても立派に盛業を続けていらっしゃる会社なので、根本的な間違いとは言えない。

一方、中小企業で人事の仕事をしていると避けられないのが中途採用者の処遇だ。中小企業の中では新卒採用から育成していく率が高い方ではあっても、様々な理由による退職であいた「穴」を補充するために中途採用は欠かせない。私の経験からすると大概の場合、新卒で育てた社員と同等の採用をするには、少なくとも1割、2割高い年収を提示しないとならない。会社年齢と年収のグラフを何度か作っていて賃金カーブを確認しているのだが、やはり時々飛び抜けた社員がいるので誰だったか確かめると中途採用者だ。

結論から言えば、特に大手企業で雇用の流動性があまりに欠けているため、景気が良くなっても会社にフリーキャッシュフローが貯まるばかりで、社員に還元されない。以前、「信長の野望」というゲームをやっていて戦いに勝っても、稼いでも、領内で反乱が頻発し、処遇をよくすることで確率を下げざるを得ないという事実に気づいた。中小企業の人事処遇は「信長の野望」と同じで雇用流動性がそこそこ高いし、社員の会社に対する士気があがらない会社が多いため稼いだフリーキャッシュを得てして社員の処遇に使わざるを得ない。*1

ウェブ界隈では「社畜*2とか言われるが要は生涯雇用の神話の裏返しに過ぎない。米国でも当然自分の会社への忠誠心は求められるだろう。しかし、「いやならやめればいい」となるし、会社側も「仕事に身が入らないほどいやなら、やめさせてしまえ」となる。そして、雇用の流動性が高まれば前述の通り雇用される能力のある人は会社が払える限り高い賃金を要求する交渉力を持つことになるし、解雇されても流動性が高く別の会社で同様の仕事の空きがあることが分かっていれば不安にはならない。"between jobs"という言い方を米国人はよくするがなんの不安も持っていないらしい。

hpo.hatenablog.com

なかなか実際の数字を示すことはいまの段階では難しいがもう少し実証的な数字を押さえていきたい。そうそう、アトキンソン氏のこの話しはかなり事実と異なる部分がある。要は大企業の生涯雇用というゆがみのクッションとして中小企業が存在するのだという主張をそのうちしたい。

toyokeizai.net

*1:曲がりなりにも盛和塾で勉強させていたいだいてる身としては、書き方が難しいが逆にだからこそ、「全従業員の物心両面の幸福追求」をド真剣に行動すべきなのだということは言うまでもない。

*2:「家畜」がlive stockであるなら「社畜」はcoporate stockか。英語だとあまり迫力ある言葉にならない。coporate slaveとか訳しちゃうんだろうな。