マット・リドレーの「進化は万能である」の中に友愛組合の話が出てくる。
進化は万能である──人類・テクノロジー・宇宙の未来 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
- 作者: マットリドレー,大田直子,鍛原多惠子,柴田裕之,吉田三知世
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2018/06/05
- メディア: 文庫
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端的に書けば、この方のおっしゃる通り。
英国では1910年頃までに雑多な友愛組合の提供する保険サービスが広がっていた。
— 坂本聡 (@hilitespecial) May 6, 2018
この友愛組合の敵に、民間保険会社があり、医師会があった。
保険会社カルテルは医者と政治家にキャンペーンを行い、
国民保険制度が始まるのだが、民間企業主導だなんてある種驚きじゃないか?
友愛組織に関する論文も多数書かれているようだ。
英国には,中世が起源とされる友愛組合が,相互扶助を目的に固有の根拠法(友愛組合法)に基づき,今も存在している。友愛組合は,当初は庶民の冠婚葬祭等における相互扶助に始まり,1911年成立の国民保険法下では,一時期,公的な保険者の役割を担うも,1948年のNHS創設(国営化)後はその地位を失い,公・私の医療保険混合型制度の下で再び民間保険の役割に回帰し,今日では,英国の金融監督規制機関の下で生命保険会社に伍して各種保険・金融商品を取り扱っている。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsis/2017/636/2017_636_167/_pdf
この組織は大変成功し、医療費も自由競争下に置かれていたために、優秀な医者が比較的競争的な値段で診療してくれた。国民皆保険ではなかったかもしれないが、1910年までにイギリスの手工業者の4分の3まで加入していたという。上記の論文にも書かれているように、この運動に水をさしたのは、国だった。ロイド・ジョージが医者や、保険会社の意思を受け、現在の健康保険につながる国民保険法を成立させる。この法律が、NHSの創設につながり、医療費用が平準化された。現在の日本の健康保険においても、事実上、診療行為のすべてが点数制度で医者の巧拙、患者の受診における満足は一切評価されない制度になった。
自由党政権のデービッド・ロイド=ジョージ財務相の主導で、「国民保険法」が成立したのです。政府、雇用主、被雇用者が保険料を拠出することで、疾病時に医療費を負担し、失業時には給付金を支払えるようになりました。
創設から70周年 - すべての人のためのNHS、その成り立ちと現在 - 英国ニュース、求人、イベント、コラム、レストラン、イギリス生活情報誌 - 英国ニュースダイジェスト
どれだけ私心なく制度は運用されても、それを悪用する人物は現れる。あるいは、そもそも制度を運用する役人に与えられている目的が制度を守ることであり、患者の満足ではない。また、根拠法の遵守を優先するので増大する医療保険費用に対して対策の打ちようがない。たしかに、民間の制度は常に解散、倒産等のリスクにさらされているが、それだけに無駄をおいておくことはない。常に「進化」し続けることが仕組みのレベルから組み込まれている。
本来民間組織でまかなえた保険制度が国営になってしまったがために、組織、制度が硬直化し、いま話題の医者の不足、受験問題へとつながっている気がしてならない。失敗や、倒産があっても、常にシステムは進化できるようになっていないと、べき乗則・ブラック・スワン的な崩壊を招きかねない気がしてならない。