HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

法で建築は規制できるのか?

建築屋が守るべき法とはハムラビ法典だと私は想っています。

若し、建築家が人のために家を建て、その工事が堅固でなく、建てた家が倒壊し、家の主人を死に至らしめたときは、建築家は死刑に処せられる。若し、主人の子供を死に至らしめたときは、建築家の子供が死刑に処せられる。・・・・・・・若し、家財を損壊したときは、損壊したものすべてを、修復しなければならない。かつ、家が堅固でなく倒壊したのであるから、建築家は自己の費用で倒壊した家を復旧しなければならない・・・・・・

建築基準法のご先祖様はハムラビ法典 - HPO機密日誌

要はひとごとで仕事をするなと。自分自身と家族がそこに住む、そこで働くつもりで建築しろというハムラビ王の教えなのだと私は想っている。これ以上になにか必要だろうか?

多田英之先生の疑問は私の疑問でもあった。ウェブでいくら"architect code"とか、"construction law"とか調べても出てこない。米国だと州毎に建築規制が違うくらいのことは知っていた。

法”Law”のレベルで建築を規制している国は日本以外にもあるのか。昭和30年代、私はそのことを徹底的に調べ上げたことがある。建築基準法の改正運動を東大の教授グループが始めた頃のこと。各国の実情をこの目で見るために、3ヶ月ほどヨーロッパにも滞在した。
ドイツ、イギリス、フランス、イタリア・・・。欧米各国の建築規制のあり方をつぶさに調査した結果、「法で建築を規制している国は日本だけ」という事実を知った。

免震の真実―耐震神話の再構築へ

免震の真実―耐震神話の再構築へ

多田先生によると、ドイツでは建築しようとすると「バウ・ポリツァイ」、日本の都道府県の建築指導課が「法」ではなく「規制」に照らして審査をする。日本では、建築確認は「建築主事」の認可事項となっていて、主事、つもりはお役人がダメだと言ったらまず抵抗のしようはない。しかし、ドイツでは設計者、建築家が十分に自身を持っていれば、「プリーフ・エンジニオール」、いわば特級建築士に相談することができる。そして、そのサインがあれば建築が可能となる。法ではなく規制なので、このような運用が可能になるのだろう。

繰り返すが、多田先生のご著書が出版された1999年、平成10年頃には、法ではあっても建築家の権限を拡大する方向で法改正が行われる前夜だった。

建築基準法は、平成10年度に、「建築基準法の一部を改正する法律」(法律第100号)により、建築基準法制定以来といわれるほど大規模に改正された。8)その基本的な骨子は、第一に、建築規制に際しての基準の性格を仕様規定から性能規定に変更すること、第二に、建築確認・検査制度を指定確認検査機関により行わせる民間開放と中間検査の新設により、その実効性を確保すること、第三に、土地の有効利用に資する建築規制手法の導入(連担建築物設計制度の創設)である。

http://www.ps.ritsumei.ac.jp/assoc/policy_science/073/073_19_yonemaru.pdf

多田先生のいきどおりは、出版された頃までは法律で建築物の構造の設計そのものが規定されていた。「仕様規定から性能規定」とは、地震や火事などに対して必要な性能を法律で定め、その性能をみたすことできる設計であればよしとする、「建築基準法制定以来といわれるほど大規模に改正」であった。不幸なことにこの後、耐震偽装事件が起こりかなりの混迷の時代を経て、改めて性能規定による設計が定着してきたと言える。

多田先生は、本書の中で法と官僚が建築を縛れば、建築の進歩はなくなる、ものづくりの精神が衰退すると書いていらっしゃる。多田先生の目線は、超高層建物や、建築センターでの審査が必要とされるような高度な建築物にあることを忘れてはならない。60m程度までの建築物も、民間で確認ができるようになったし、免震についても告示免震と言われる一定の仕様、性能を示す構造設計ができればよしとするように規制が変わってきている。

規制とものづくり。相矛盾することがらだが、よくよくバランスがとれていなければ確かに進歩発展はない。難しい問題ではある。