HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

藤村義朗さんからのメッセージ

たまたま元海軍中佐、藤村義朗さんの約四半世紀前の講演録が手に入った。藤村義朗さんは、戦時中に米国と日本の和平工作をしたことで有名だ。

ちなみに、一般に流布されている藤村さんのご活躍についてかなり徹底して検証した文章をみつけた。

かなり長文にわたる検証であった。結果としては、藤村氏の記憶違いと自己顕示のためと思われる誇張はあるものの、太平洋戦争末期、一海軍中佐によって和平への努力が行われたことが米国側の解読暗号、当事者であった高木惣吉氏の資料などによって検証されている。日本は敗戦間近ではあったが、米国がソ連の参戦を望んでいなかったために、直前まで和平交渉が成立する可能性があったということは蒙を啓れた。

史料を読んでいるとよく「情勢判断」という言葉が出てくる。軍関係で、どのように「情勢判断」が教育、訓練され、身につけられたものか知らない。しかし、手に入れた講義録によると藤村さんは1986年に現在の21世紀の姿をかなり的確に「情勢判断」していらっしゃったことが伝わる。

ソ連は)第二次世界大戦が始まって戦争のどさくさの中、6年間に8カ国を取りました。それは、ポーランド東部、ルーマニア東部、東プロシヤ北部、バルト3国、フィンランド東部、ハンガリーの計8カ国をよその国が戦争している間にサッととったのです。

私はいまでも日本が北進しなかったのは、ソ連の陰謀であったと思っている。戦中戦後の諸先輩の活躍と、前述の米国の思惑がなければ、この8カ国が9カ国になり、ソ連領有されていたかもしれない。

しかし、藤村さんはこういうことをする国は道徳的な国とはいえず、従って長期的には苦境に陥るとおっしゃっている。

 アメリカの情報局の大統領宛の報告では、ソ連の情勢、分析の結果、歴史はソ連の味方ではないというのが結論です。
 モスクワの首脳部は、現在の情勢を挽回する知恵もなく、悪化していくのを取り返す、力もなく、資源もない。更に挽回の時間もない。これがアメリカの見方です。
(中略)
そうすると崩壊は食い止められず、従ってソ連共主義は崩壊するだろう。そして、崩壊後、新しい社会が出てくるだろう。

86年といえば私は大学生であったが、まだソ連は超大国だと信じられていた。ソ連への対抗上、米国はSDIに莫大な投資をしていた。ミグの飛来とか、大韓航空機爆破事件とか、冷戦がまだ生々しく感じられていた時代であった。藤村さんは米国にたくさん知人がいらしたのだろう。

ちょっと驚いたのはその後の予測。これは米国が80年代にソ連のその後をどう予測していたかということでもある。

そこでどうするのかと言えば、東西の力関係を変える為に、国外に対して冒険をやる恐れがある。その第一に、ペルシャ湾に向かって進出する石油を押さえるのです。
第二に、西ヨーロッパを押さえる。
第三に、再び朝鮮戦争を起こして北海道を狙う。
(中略)
しかし、ソ連は、そんな事はしないと思いますが、アメリカのCIAは、そういう見方で大統領に報告しているので。

実際、ロシアになってからつい最近までヨーロッパ向けの石油パイプランをどのように通すかが国家戦略上大きな位置を占めたのだと私は理解している。「ワールドイズノットイナフ」なんて映画もあったなぁと。


BTC(バクー・トビリシ・ジェイハン)パイプラインはいくつかのフィクション作品で取り上げられている。ジェームズ・ボンドシリーズの『ワールド・イズ・ノット・イナフ』ではプロットの中心として取り上げられた。主要人物の一人であるエレクトラ・キングは、カスピ海からトルコの地中海沿岸までカフカースを横断する石油パイプラインの建設工事を指導している。このパイプラインこそ、わずかに設定を変えたBTCパイプラインである[39]。

バクー・トビリシ・ジェイハンパイプライン - Wikipedia

深読みしすぎかもしれないが、80年代にソ連が石油を押さえることを恐れた米国がBTCパイプラインを押したと考えられまいか。

「第三」にあげられた朝鮮のことは、いまだに流動的過ぎる。ただ、ロシアがかなり影響力を保ち続けていることと、ロシア・中国の力をもってすればいつでも北朝鮮を制御におけたはずなのは事実。「朝鮮は、日本の心臓に向った矢の様なものです」という言葉もあった。ロシアは対日本政策上、北朝鮮は存在していたほうがよい。あまりに当たり前だが。

で、21世紀はどうなるかと。

これから21世紀に向かってどこが、世界の中心になるかといえば、やっぱり中国を中心とした東亜。中国は4000年の歴史をもって素晴らしい文化をもち、共産主義に入って勉強して、これではダメだというのに気づいたのです。そして、今の訒小平が、すっかりやり変えているのです。

この20年ほど、中国の方となんらかの接触を持っているが、とてもとても80年代の中国がほんとうに21世紀をひっぱっていくような国なるとは思えなかった。失礼だが、トレイの清潔度を見て誰もが思っていたはずだ。それをさらっと「情勢判断」していらっしゃるのはすごい。

ちなみに、「情勢判断」でネットで調べたら脳力開発城野宏先生が出てきた。

城野宏先生も軍人であられた。結局敗戦を迎えたので、すべては失敗のように語られるが幾人かであってもすぐれた諸先輩方の情報収集、情勢判断能力には敬意をはらうべきだと思う。

*1:ちなみに、この文章では「藤村義一」とあるが、戦後に「義朗」に改名したのだそうだ。海軍人事名簿 は行