HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

ガリバー旅行記から学ぶ超高齢社会 : ストラルドブラグからフウイヌムへ

ふとガリバー旅行記の日本訪問を含む、後半2編はそのまま現代のリアル日本にいる私たちの抱える問題への洞察を含んでいると気づいた。

まずは長寿の呪いだ。18世紀の誰が長寿が呪いになると考えただろう。ガリバーは、空飛ぶ都市、ラピュタの次、そして日本の前に、ラグナグ王国に立ち寄る。そこで、不死人、ストラルドブラグに会った。

なにしろ、このストラルドブラグなるものは、この国にしかいないもので、バルニバービにも日本にも見ることはできません。前に私も使節として、バルニバービや日本へ行ったことがありますが、その国の人たちは、てんで、そんなものがあるとは考えられないと言っていました。私は、バルニバービや日本の人たちと、いろ/\話し合ってみて、長生ということが、すべての人間の願いであることを発見しました。片足を墓穴に突っ込んだような人間でさえ、もう一方の足ではできるだけ入るまいとあがきます。たとえ、どんなに年をとっていても、まだ一日でも長生するつもりらしいのです。
 ところが、このラグナグの国では、絶えず眼の前にストラルドブラグの例を見せつけられているためか、この国の人たちは、やたらに長生を望まないのです。

ストラルドブラグがいかに醜悪であるかは、本文にあたってほしい。あまりにリアルなので、ここに書きたくない。

結果、いまのリアルの日本が対応しているのと同じことをラグナグ王国はせざるをえなくなったそうだ。あ、でも、80歳すぎても相続はないな。この辺からして、リアル日本は考えるヒントがあるのかもしれない。

彼等は満八十歳になると、この国の法律ではもう死んだものと同じように扱われ、財産はすぐ子供が相続することになっています。そして国から、ごく僅かの手当が出され、困る者は国の費用で養われることになっています。

ラピュタやラグナグ王国、そして日本を終えてガリバーは一旦、英国へ戻るのだが、また旅に出る。そして、たどりつくのがフウイヌムの国だ。

不死人、ストラルドブラグに対して、馬の姿をしたフウイヌムは実に理想的に描かれている。どれくらい理想的かというと、お金がこの国には存在しないほどだ。

 私は今度は金銭の話をしてやりました。これも、主人には私の言う意味がなか/\、のみこめないようでした。私は言いました。

あるいは、こう書かれている。

 このフウイヌム族というのは、生れつき、非常に徳の高い性質を持っています。彼等の格言は、『理性を磨け。理性によって行え。』というのでした。
 友情と厚意は、フウイヌムの美徳です。どんな遠い国から来た知らない人でも、まるで友達のようにもてなされます。どこへ行っても、自分の家と同じように安心できます。みんなは、非常に上品で、つゝしみ深いのですが、ちょっとも、わざとらしいところがありません。自分の子供も他所の子供も、同じように可愛がります。子供の教育の仕方は、なか/\立派なのです。十八歳になるまでは、ある定まった日でなければ、からす[#「からす」に傍点]麦など一粒も口にすることを許されません。夏は午前に二時間と、午後に二時間ずつ、草を食べさせてもらいますが、この規則を親たちもきちんと守ります。

理想主義者、夢想家とあなたはいうかもしれない。しかし、スタートレックを創造したロッデンベリーを大好きな私は、21世紀の間に貨幣価値や人のつながり方が大きく変化すると信じてやまない。

いずれにせよ、フウムイヌの国にいる、人間が退化してその本性のみで生きているとしか思えないヤフーがさらに対照的に描かれる。ヤフーたちは、欲張りで、戦争ばかりしているという。これもまたあまりに醜悪なので、これ以上ここで書きたくない。「家畜人ヤプー」はこのガリバー旅行記のヤフーにヒントを得て書かれたというだけで十分だろう。*1

なによりも、フウムイヌの死に際がすばらしい。

 フウイヌムたちは、病気にかゝるということがないので、医者はいません。しかし、怪我をしたときつける薬は、ちゃんと備えてあります。彼等は、病気にかゝつて死ぬようなことはなく、たゞ年をとって自然に衰えて死ぬのです。そして、死人は人目につかない場所にそっと葬られます。臨終だといって、誰も悲しんだりするものはありません。死んでゆく本人でさえ、ちょっとも悲しそうな顔はしていないのです。
 彼等は大てい、七十か七十五まで生きます。たまには八十まで生きるものもいます。死ぬ二三週間前になると、だん/\身体が弱ってきますが、別につらくはないのです。そうなると、友達が次々に訪ねて来ます。つまり、気楽にちょっと外出するようなことができないからです。いよ/\死ぬ十日前頃には、今度は橇《そり》に乗って、ヤーフどもに引かせて、ごく近所の人たちだけに答礼に出かけてゆきます。彼は答礼先へ着くと、まず、お別れの挨拶をのべるのですが、それはまるで、どこか遠いところへ旅行するときの別れのような恰好なのです。

私が「ガリバー旅行記」を読んだのは、たぶん中学生くらいのころだったと思う。それからずいぶんたつが、このフウイヌムの死の迎え方だけは忘れなかった。

ここにこそいまの日本人に必要な知恵があると私は信じている。


ああ、映像は雄弁だ。そして、残酷だ。

 *2

とてもとても、ストラルドブラグを映像でみるのは耐えられない。

*1:考えてみると、Yahoo!もガリバーがもともとの語源なんかね? Houyhnhnm - Wikipedia, the free encyclopedia

*2:偶然だけど、このガリバーの奥さんの役をやっている人は名前が思い出せないけど、スタートレック・ネクスト・ジェネレーションに出てた人だよね?