HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

高まるインフレ気運、減速するお金、群れを分ける法律言語

これはびっくり。最近、新聞記事がすぐに消えてしまうので、引用しとく*1

国土交通省公共工事の発注後に資材が急に値上がりした場合に、建設業者に支払う工事代を上乗せする「単品スライド条項」を適用する方針を固めた。鋼材価格が急騰しているためだ。実現すれば第2次石油危機後の1980年以来28年ぶり。地方自治体にも広がる可能性がある。

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こういう変動の多い時期の政策決定とは、まさに経済の方向性と政府の方針がまさにリンクするところなのだろう。しかし、どうにも私にはこれらの政策が仮定しているはずの「多数の者」という「公益」の姿が見えずにいる。

どうも私の目に入ってくるのは、デフレだの、インフレだの、官製不況だの、消費税のアップだの、団塊の世代の引退だので、これまでの経済とか生活とか地域社会とかの構造が破壊されていっている日本の社会的な風景だ。アップダウンを繰り返しながら、日本を支えてきた構造や組織が変質し、崩壊していくということは、次第しだいに日本の「円」という貨幣でで買える「モノ」の幅が狭くなっていくことだ。安冨歩先生がおっしゃるように、貨幣が選択の束*2なのだとすれば、選択の幅がせまくなることは、貨幣の価値が下がることそのものだ。

海の波が流木やガラス瓶を残していくように、経済の波もさまざまなモノを残していく。功利主義的な色彩が強く、倫理が忘れ去られがちな絶対王制と資本主義の歴史の波を経た欧州とか、米国の東部の一部の街に行くと、それはここには過大だろうというような建物が残っていたりする。古い、古い建物が残っていてスラム化してたりするのは、不況、破産*3、好況の波がなんども人も組織も社会もさらいに来たあかしだ。場合によっては、未来の希望であったような摩天楼や、高層の住宅が、逆に貧困の象徴のような状態になっていたりもする。大きな波がいくつ来ても、生き延びてきたのが庶民なのだが、その生きざまはまた別の機会に語りたい。今は、私自身の置かれた21世紀の日本に目線を戻そう。

経済の波とは、そのままお金の流れの上げ潮、引き潮だ。大きく言えば、企業・民間セクターの日々の商売と国と地方公共団体*4の予算で決まる。私自身が自分の組織と立場を守りたいと必死になるように、お役人が自分の立場を守ろうとするのは当然のことだ。自分の立場を守るとはなにか?お金の流れを自分で制御し、組織のルール、政策決定という「言葉」を独占することだ。

企業・民間セクターなら、流れるお金の「出るを制し、入るを計る」ことがなによりインセンティブとなる。「出るを制し、入るを計る」ことがそのまま組織の利益につながり、一人ひとりの立場の保全につながり、お給料につながり、生活の選択の幅がひろがることになる。

マクロ経済学とか全然わからないのだけど、もらった後は、税金として払おうが、貯金にまわそうが、ガソリンを買おうが、お金が流れていくことには変わりはないはずだ。なにが変わったかと言えば、ケインズの頃には、官僚組織ほどうまくお金を使うことのできる組織はなかった。だが、いまは民間で動くお金の方がはるかにスピードがあり、お役所セクターのお金の動きがスローモーに見えて仕方がないということが問題なのではないだろうか?国家や地方に流れるお金が民間と同じスピードで流れているのなら、たとえ少子高齢化が進んでも、こんなに停滞感が漂う状態にはならなかっただろう。失礼だが、国や地方に周ったお金がなかなか外へ出てこないところに大きな問題があるように感じる。この民間とお役所との差が無視できないほど大きくなっているので、稼げども、稼げども、景気がよくなっていかない。

ここでお役所セクターでは「出るを制し、入るを計る」という価値観を逆転する必要があるのではないだろうか?組織文化の問題だという話でもあるのだが、お役人も「真水」をいかに増やすかをインセンティブにすべきではないか?いかに税金やその他の歳入として入ってきたお金を効率よく歳出に回すか、真水を歳入額でわった比率を指標にし、お役人ひとりひとりのインセンティブにすれば、「多数の者」の納得性があるのではないだろうか?*5国や地方公共団体がいま現在抱えている借金なんて、相続税でもなんでも税率をあげて、一方でほんの少し徳政令でも出せば、相殺可能であろう。どうせ、相殺するほどの「円」ベースのお金を持っているのは、すでに墓場に片足をつっこんでいる老人ばかりだ。ブログ界隈にいるような若いのには、生活するにぎりぎりのお金しか周ってこない。そもそも貨幣としての「円」の選択肢が社会の崩壊とともに狭くなるのなら、資産としても借金としても「円」の価値は暴落する。

同様にして法律とか規制もいくらふやしてもいいから、もちょっとわかりやすくしてほしい。*6

私も最近、教科書を書くために初めて全文を読んだが、こんなわかりにくい法律は他にない。昔建てた温泉旅館に建て増しを重ねたようなもので、迷路のようになっていて、火事が起きたらみんな死ぬ。

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法律がすりきれそうなパッチワーク状態になっているということは、著作権の問題ばかりではない、最近お会いする人、お会いする人、ほんとうにみな同じことを言う。私の業界をみていると現実にそう遠くない将来に、「いやぁ、法律読めんかったからリアル火事が起こっても誰も助からんわ」って事態になりかねない気がする。

ソビエトの末期には、互いに矛盾する法律ばかりだから、ひとつの法律を守ろうとすると、ほかの法律をやぶらざるを得ない状態に陥っていたそうな。だから、お役人自身も法律相互の関係がたどれなくなってしまい、お役人のところに相談にいくとソビエトの六法全書をぱらぱらと開いて、たまたまあけたページに書いてあった法律を適用されたのだそうだ。これからは、エライ人たちがみんな心配しているように、ますます馬鹿ばっかの日本になっていくのだから、こんなに複雑な法律体系をそもそも維持できなくなる明日がすぐそこに見えている。真剣にシンプル・イズ・ザ・ベストな法律体系というものはできないものだろうか?義務教育を終えた者であれば、理解可能にすることは実は十分に可能だと思う。*7

とにかくいまの法律体系、お役人の組織体制では、複雑にすることこそが自分たちの立場を保全することになるというバベルの塔状態になっている。結果、国が責任をとらなくてもよいことに責任を取らざるを得ないというばかばかしい状況も生み出されている。

言葉と法律の存在意義とはそんなところのものなのだろう。「バベルの塔」問題を書き始めたら長くなってしまったので、昔のエントリーに加筆した。

今の世の中では、「法律言語」というのが新たな群れの境を示す言葉の分水嶺になっているように思える。

言語の分化はフリーライダー対策だった - HPO:機密日誌

ことばの起源―猿の毛づくろい、人のゴシップ

ことばの起源―猿の毛づくろい、人のゴシップ

ではどうすればよいのか?

わからないというのが、正直なところ。

ここでの論の延長で言えば、限りなく不可能に思えてならない解ではあるが、お金の流れも、法律も、お役所の組織がこれまでとは逆のインセンティブが定着するようにならないと希望は見えてこない。それはある意味やせがまんというか、武士は食わねど高楊枝、という世界ではある。あるいは、思いっきり弱肉強食というか、モーレツ60年代みたいに産業発展のために国と民間が生活を犠牲にしてでも、力を合わせて世界と対抗しよう!、とするか、くらいかなぁ。わからんなぁ。

■追記

書いた時点では書いた本人すら意味不明部分が多数*8であったため、加筆訂正。

終わった時点であらためて池田信夫さんのブログを拝読した。私も涙が出そうになった。

大正期には政治主導の時代もあったのだから、この点でもあきらめるのは早い。

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本当に祈りたくなるような気持ちだ。

そうそう、こんなニュースも伝わってきた。

昨日のエントリーや、この辺をおくみ取りいただいたような気すらしてくる。

建築基準法をめぐる冒険 - HPO:機密日誌

*1:全文は以下の通り。
国土交通省公共工事の発注後に資材が急に値上がりした場合に、建設業者に支払う工事代を上乗せする「単品スライド条項」を適用する方針を固めた。鋼材価格が急騰しているためだ。実現すれば第2次石油危機後の1980年以来28年ぶり。地方自治体にも広がる可能性がある。
 公共工事は入札などで受注業者を決めたときに工事代金も決まる。しかし、最近では受注した業者が工事資材を実際に買う前に値上がりが進み、業者の採算悪化を招いているという。条項の適用で業者の収益は改善されるが、国民負担は増える恐れがある。
 単品スライド条項は、81年に公共工事契約書のモデルとなる国の約款に盛り込まれた。「工期内に主要材料の価格に著しい変動が生じ、請負代金額が不適当となった時は請負業者は価格変更を請求することができる」としている。石油危機の影響でセメントやアスファルトが高騰した80年に、建設省(当時)と業者らが協議し、値上がりの一部を工事代に上乗せした措置を明文化した内容だ。
 しかし、発動基準があいまいなため、国交省は(1)鋼材の値上がり額が工事代金の一定割合を超えた場合(2)受注後数カ月間の鋼材単価の上昇率が一定以上――といった基準作りを進めている。長期間の工事には、1年後に費用の変動に合わせて代金を増減する別のスライド条項があるため、単品スライドは、数カ月前の発注工事を対象にする。6月にも適用したい考えだ。
 鋼材は、ここ3カ月間で鉄筋が1トン7万8千円から10万円に、マンション建設などに使うH形鋼は1トン8万8千円から11万8千円になった。このため、業界団体が条項の適用を求めていた。
 公共工事の入札不成立の増加も背景にある。関東地方整備局の07年度の入札不成立件数は全体の3割に達した。国交省は、受注後の資材高騰で赤字工事になるのを業者が敬遠するのが一因とみている。
 国交省は、適用で工事代金が数%増えると試算する。その分、国民負担が増えるため、緊急性の低い工事の発注を遅らせるなどして、予算配分を調整する方針だ。
 地方自治体の大半も単品スライド条項を盛った契約書を使っており、国交省の適用基準を参考に適用を検討することになりそうだ。(座小田英史) 」

*2:参照[書評]貨幣の複雑性 ecology of blogs: HPO:個人的な意見 ココログ版

*3:「破産」ってことは、借金の棒引き。でも、金融機関も庶民もみんな生き伸びる。

*4:だいたい「地方政府」とか「首都」と言わずに、「地方公共団体」とか「県庁所在地」と言い換える日本の中央政府のこすさが嫌いだ。

*5:いま現在は、お金がお役所セクターで停滞し、お役人のお仲間の間でだけお金が回っていればいるほど、お役人の人員は必要となり、仲間を増やすことができるというのが、お役人のインセンティブになっている。ここが大きな問題なのだ。いかに少人数で、いかに素早く効率的に歳入を真水として民間セクターに支出できるかというのは、結果として効率化、合理化というお役人が最も嫌う方向を向くことになる。ということは、最もお役人から嫌われる。

*6:と、言っているそばからこれ。
404 Not Found 「 弁護士らによる「欠陥住宅被害全国連絡協議会」は1日、「住」の安全確保を図るため、政府が2009年度の創設を目指す消費者庁に、強い権限を持つ「建築安全局」の設置を求める意見書を採択した。近く、福田首相に提出する。耐震偽装事件などでは、行政の対応の遅れが出たとして、権限を集中させた部局の設置を提案している。」

*7:実は、法律をいかにわかりやすくするかについても民間セクター、受験産業の活躍は目覚ましいものがある。いっそ参考書を法律にしてしまえばいいと思ってしまうのは、私ばかりではないだろう。

*8:今も(笑)?ほんとうに少しは読んでいただけるとか、一度くらいは炎上してみれるくらいのブログの書き手になってみたいものだ...orz