HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

格差社会の必要性?

えー、まだ考えはぜんぜんまとまっていませんが、例によってももちさんの記事について書きたい衝動がムラムラ来ている。

が、「経済成長ありき」なのだろか、とか、本当に「差が広がっている国ほど経済は成長するのが16世紀以来の現実」なのか、とかちょっとでもそこに疑問をもつならば、ちょっと待てよ、となる――例えば「経済成長は、もういらない」と考えている人たちにとっては、これはトンデモ理論でしかないわけだ。

ももち ど ぶろぐ|格差社会はいいことだ?

一方、池田さんの記事を先日引用させていただいた。

要するに、横並びの賃金決定が、一方では非正規労働者や失業者を増やし、他方ではプログラマの悲惨な生活をもたらしているのだ。

指定されたページがみつかりませんでした - goo ブログ

この辺の決着を自分でつけたい。


ええと、いまYouTubeにアップ中なんだけど、この前のモデルで、10×10のセルモデルと単にセルの数を大きくしただけの15×15モデルを作って、頂上がどれくらい大きくなるかをシミュレーションしてみた。基本的にはセルひとつひとつの数値を「富」と見立てて、一定の「付加価値」を付けながら、一定の割合で近隣のセルに「贈与」すると考えてもらっていい。そうすると、周辺部よりも中央部の方がより「贈与」される機会が増えるので、「金持ち」が生まれやすい。逆に、周辺部だと機会がすくなくなるので相対的に「貧乏」になりやすい。

  • エクセルファイル

ダウンロード concentration_sims070217.xls (403.5K)

  • 10×10モデル 動画 (20試行)

ダウンロード concetrate_10x10_070217.wmv (1378.0K)


  • 15×15モデル 動画 (20試行)

ダウンロード concetrate_15x15_070217.wmv (1307.7K)

*1

思ったよりも、初期のセルの状態が12世代後まで影響しているようなので、初期変数をランダムな数で埋めてやりそれぞれ20試行した様子を動画にしてみた。

この辺を間接してみて思ったのは、ももちさんが引用されているニューズウィークの記事のように「差が広がっている国ほど経済は成長する」のではなくて、「成長する国ほど(結果として)格差は大きくなる」のではないかということだ。そもそもこのエクセルで作った網膜神経「贈与」モデルが経済をシミュレーションできているかの妥当性の検討はまったくないのだが、10×10のセルのつながりを経済圏と想定できるなら、その圏内の個体の数が大きくなればなるほど、格差はつきやすくなるように見える。

ただ、15×15のセルの方が山が平たく見える。これは、一定の密度以上であれば相互の「贈与」が飽和状態的になるからかもしれない。それでも、初期の配置によりやまがゆがんだりする様子を見ると、ムラはあるようだ。

では、無理やりこの山の上を伸ばさないようにするにはどうしたらよいか?つまり、経済が成長しない条件ではどのような変化が見られるのか?一般的に税金をかけてやるとか、自己維持のための「消費」が増えるとか、「贈与」によって「付加価値」が生まれない状態などが、考えられる。ももちさんの根本的な問いにはほどとおくなるが、そのセル群の数値の合計を「経済成長」の指標の代わりと無理やりとらえてみよう。

実はこのシミュレーションは前の世代のセルから次の世代のセルへ、周辺との相互作用を↓のように設定していた。

つまり、自分自身の前の世代のセルの値からは30%持ってくる。つまり、70%は周辺のセルに贈与する*2。周辺のセルから「受け取る」値の合計が70%を超えるのは、「贈与」されるときに「もらった」側は、「贈与した」側がかけたコストよりも、付加価値を感じるくらいに解釈してほしい。

この結果が↑の動画の山形の結果を生む。静止画像にすると↓な感じだ。

これを、税金というか、自己消費というか、前の世代の自分のセルの数値が大きければ大きいほど、マイナスが大きくなるように分配の値をマイナスにしてやる。あまりマイナスが大きいとあっというまに、すべてのセルが0周辺で収斂してしまうので、各世代毎のセル群全体の数値の合計をあまり変えないように、中央の値を調整してやる。

結果はどうなったか?これだ。

これではわからないので、これまで最大値が80であった縦軸を最大値2に拡大してやるとこうなる。

非常に低いが山がちゃんとできている。前のモデルだと山の上と裾とで最大で50近くの「格差」が生まれていた。それでも、周辺部でも5から10くらいの値であった。だが、この成長0モデルでは確かに山の上と裾の「格差」は1以下になったが周辺部ではほとんど0に近い数値になっている。

価値観の問題ではあるとはいえ、かつこのモデルを経済にあてはめてよいのかという妥当性の検証はまったしていないが、セルの数字がなんらかの富を示すのだとすればどちらが「幸せ」だろうか?



  • おまけ

地学における自己組織化についてかわいらしいお嬢さんが語ってくれる。めっけもんの動画だな、これは。

さらに、同じ方が作ったらしいフィボナッチ、黄金比、自己組織化のアニメーション。

こういう見せ方ができれば、ずっとわかりやすいわけだ。いやぁ、この方のファンになってしまいそう!

http://hidekih.cocolog-nifty.com/hpo/2006/03/post_f41b.html



ニューズウィークの「格差社会はいいことだ」特集を読んだ。


Cover Story
ひと握りの金持ちばかりが儲けるなんて許せない? しかし実は所得格差の拡大は経済成長を促し、中流を潤すメリットも生む 22
格差社会はいいことだ
高額商品 超リッチ層の正しい浪費術 26
日本 「勝ち負け」の差はあって当たり前 31

http://www.newsweekjapan.hankyu-com.co.jp/

昨今の池田さんや山形さんの議論を受ければ、この話はサービス業が雇用の60%を越した米国で「正しい」話なのだと思った。結局、製造業が勃興していくためには全国民が中流意識を持ち、上から下また一丸となって(前置きをしなければならない時代になったので)経済学の意味ではない生産性を高め、品質を管理すること以外にない。

しかし、製造業がかなり、というかほとんど海外との競争にさらされ移転してしまった米国、あるいは英国において金持ちが必要とするサービス業は、海外移転が難しい分野であると言える。もちろん、米国では低賃金の移民が、非常に安い賃金でどくドメスティックなサービス分野で働いているという現実はあるだろう。しかし、増加する超高額所得者が要求するサービスは、言葉の問題や遵法の問題からもかなりクリアーな人材を必要とする。

では、りるがえって日本はどうなのだろうか?

多分、人が思っているよりも日本には高額所得者や、多くの資産を所有する富裕層が存在する。彼らはなんらかの形で成長著しい輸出入にかかわっていたり、閉鎖的といわれような日本特有の構造の上で特殊な利権を持っていたりするわけだ。彼らに追随する形で日本の内需を振興する方向にかじをきるのか、やはり平等という感覚をみなが持ち続けられるような政策をとり、製造業一本でやっていくのか?↑のシミュレーションはともかく、山が高ければ裾野も高いと私は思うのだが、どうだろうか?



  • 追記

morutanさんよりご紹介をいただく。ありがとうございます。

ニューズウィーク日本版「格差社会はいいことだ」、やりすぎ(ーー)  @ 田中秀臣さん

ももちさんにも教えてあげよっと!

*1:しかし、YouTubeにアップから6時間以上たっているのに、まだ公開されない。時間かかりすぎなのでは?さすがにサーバーの問題?それとも検閲かなにかあるのかな?

*2:エクセルに当てはめやすくするために、この場合はそのセルに対して周辺からどれだけの割合で「持ってくる」ように設定してある。