HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

「日本人のための第一次世界大戦」 その1

書店で見つけて読み始めた。今回のウクライナへのロシア侵攻と重ね合わせて考えると、大変示唆することが大きい。

例えば、プーチン大統領が3月8日にわざわざなんで国際婦人デーに出席したのかなと思ったら2月革命の発端が国際婦人デーだったと。

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国際婦人デー

国際女性デーにちなむ最大の事件は、第一次世界大戦中の1917年にロシア帝国で起こった二月革命であろう。国際女性デー(当時ロシアで使われていたユリウス暦では2月23日にあたる)に首都ペトログラードで行われた女性労働者を中心としたデモは、男性労働者、更には兵士を巻き込んだ大規模な蜂起となり、最終的には帝政を崩壊に追い込んだ。

国際女性デー - Wikipedia

本書の基本認識は「100年前のツキディデスの罠」かなと。つまり、

「台頭する国家は自国の権利を強く意識し、より大きな影響力(利益)と敬意 (名誉)を求めるようになる。チャレンジャーに直面した既存の大国は状況を恐れ、不安になり、守りを固める」

まさに、今のプーチン大統領かなと。2014年のクリミア併合から衰えるばかりの自国の国力、テクノロジーに直面し、西欧民主主義勢力は東へ東へと勢力を拡大するように見えるのだと。第一次世界大戦という100年前の歴史に学ぶことは大事だが更にギリシア・ローマの古典の時代から。地政学的な「動学」というのは変わらないものなのだと。

本書、第4章では「世界から見た日露戦争」について論じている。今回のウクライナ侵攻においても日本が憲法9条改憲できていたら違った展開があったのではと思考実験するいいヒントになる。日露戦争が始まるころ、マッキンダー地政学を提唱したと。移動テクノロジーの進歩、蒸気機関、鉄道などによる世界の変化に伴い世界覇権がいかに英国のような海洋国家、シーパワーから、ロシア・ドイツのようなランドパワー、大陸勢力に移るかを論じたと。

ハルフォード・マッキンダー卿は、ハートランド論を唱え、ユーラシアを基点とした国際関係の力学を地理的に分析した。なお、マッキンダーは自身の理論を一度も地政学と称したことはないが、今日における地政学という体系はほぼマッキンダーの理論をその祖と仰いでいるといっていい。マッキンダーの主張は以下の通り。

  • 世界は閉鎖された空間となった。
  • 人類の歴史はランドパワーとシーパワーの闘争の歴史である。
  • これからはランドパワーの時代である。
  • 東欧を制するものは世界を制する。

海洋国家イギリスに生まれ育ちながらマッキンダーランドパワー論者となったのは、大陸国家の勢力拡大への脅威から海洋国家イギリスを如何に守るかという戦略のあり方について研究の重きを置いたことによる。

ハルフォード・マッキンダー - Wikipedia

1904年、マッキンダーは「歴史の地理学的展開」(地政学)講演でシーパワー(海洋国家)をランドパワー(ユーラシア)が凌駕すると講演したと本書で記述されている。そのきっかけが日露戦争となるだろうと。故に日露戦争第0次世界大戦であった位置づけられると。とすれば、地政学はその成立の時点で日本がロシアに勝利したことで反証があったことになる。

テクノロジーによる世界が繋がりいわば地球儀のように同盟関係等によりお互いに挟撃される可能性のある世界に国会が存在することが立体的に認識された。そして、地政学的な分析で「東欧を制するものは世界を制する」と予言され、第一次世界大戦におけるサラエボ(当時オーストリア、現ボスニア・ヘルツェゴビナ)における勃発、第二次世界大戦におけるドイツのポーランド侵攻を思えば極めて先見性のあるテーゼ。さらに、今回ロシアがウクライナに侵攻したことがきっかけで第三次世界大戦が起こりかねない状態になっていることを思えば恐怖しかない。

この前提において欧州各国の第一次世界大戦の動きを見ると日露戦争、日本の存在感がそれなりにある。例えば、第一次世界大戦におけるドイツのフランスに対する戦略、シェリーフェンプランがある。地政学的にフランスとロシアの2つの大国に挟まれ両面作戦を余儀なくされる。これは19世紀から現代に至るまでドイツの変わらない立ち位置だと言える。ウクライナ侵攻においてロシアに強い攻勢にでれない現代ドイツもこの延長線上にあると言える。しかし、日露戦争により国力を削がれたロシアがあり、フランスに対して優位な軍事力をもつに至ったドイツは、参謀、シェリーフェンが託された国力を最大限フランスに対して発揮するために前線を撃破しベルギー経由でフランス主力の後ろに回り込む戦略である。この意味で、英国、フランス、ドイツ、ロシアは常にお互いに挟撃関係になりうるため地政学的緊張感を持っていたのだと言える。そして、第一次世界大戦前夜において、その緊張のバランスを崩したのは日本だと。ロシアの更に東からロシアを挟撃できる力を日本は持っていたので。ゆえに、ロシアは日本国憲法九条がなければウクライナ侵攻していなかったかもと妄想したくなる。

まだまだ戦争経済、国家総力戦、戦時下における経済・金融など本書について語らなければならないことが山積み。どこかでまた改めて語りたい。