HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

欲望の果てに

これまで様々な意欲をもって仕事に取り組んできた。それは、自分が責任を託された家族、仲間、家の伝統を守るための必死の努力だった。まだ結婚していた時に、当時の配偶者から「私と仕事とどっちが大事なの?」と聞かれた「君を守るために仕事をしているんだよ」と答えたのは本音だった。全てを失いかねない状況をいくつも切り抜けていま若干の安定を産むことができたと信じている。

しかし、このブログで何度も書いているように最近不幸なことに遭ってしまった。それ以来、自分のこれまでを反省する日々が続いている。何をしても楽しくない、夜ぐっすり眠ることすらできない。世間的には通常の通りの仕事、生活をしているが無理にでもそうしていないと自分がおかしくなってしまうからに過ぎない。

そんな中で、石原慎太郎の「天才」を読んだ。いうまでもなく一人称で田中角栄の生涯を綴った半ばドキュメンタリーだ。

この中では、日中国交正常化に成功し、米国から疎まれたことがなんとも不可解なロッキード事件の判決へつながったくだりが描かれている。そして、数々のスキャンダル報道の中で家族のことを想って首相を辞める決断をしたとも描かれている。

DeNAの南場さんも、ご主人のために会社の代表を降りるというのが「不格好経営 (日本経済新聞出版)」のひとつの結論であったように記憶する。

hpo.hatenablog.com

家族のため、仲間のため、伝統のために仕事を選び、仕事に邁進し、他のすべてを犠牲にしてきた。しかし、いま本当にそれでよかったのかと考えざるを得ない。眠れない夜になんでも自分の記憶をまさぐり、家庭と仕事の両立をする道がなかったか、不幸を避ける道はなかったのか考え続けたが、見いだせなかった。すべて、自分が自分である限り、生きている限り今のこの地点にたどり着くだろうとしか考えられない。

だとすれば、多少の「安定」を利用してこれからはもっと家族のために生きる道を選択すべきなのだという結論に達する。「天才」よれば「今太閤」田中角栄ですら娘の田中真紀子との確執があった。下野した後も、いまわの際までも、解消されることはなかった。どんなに大義名分を立てても自分の欲望が人間を動かしている。そこをよくよく見つめ直す必要を感じている。