複式簿記の説明を人にするのに、コロンブスの話しをよく使う。旧大陸(東側、右側、貸方、Credit)で資金を調達し、新大陸(西側、左側、借方、Debit)に船や在庫(資産)を持って行ったと。こう覚えると、貸借対照表の右と左が理解しやすい。なおかつ、複式簿記について書かれた世界で初めての書籍の出版が1492年のコロンブスの新大陸発見と同時期であったことも大きい。
13世紀初頭~14世紀末 イタリア
複式簿記は、地中海貿易で繁栄したイタリアの商業都市で、商業と銀行業の記録・計算の道具として実務のうちから誕生・発達し、15世紀に体系的組織を確立しました。
・ 複式簿記を解説した世界最古の出版物ルカ・パチオリ(Luca Pacioli) 「スムマ」 1494年刊 (ヴェニス)Eb-1902(reprint ed.)
「スムマ」以後、ヴェネチア式簿記は、各国語に翻訳されヨーロッパ諸国に広まっていきます。
複式簿記の誕生と発展
ということで、私は長いこと西欧の大航海時代が実現できたのは、複式簿記というすぐれた商売の状況把握、情報公開の手法が開発されたことと軌を一にしているのだと理解し、人にも話してきた。最近、よく本屋に足を運ぶのだが、そんな中で手に取ったのが、この本。
- 作者: 渡邉泉
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2017/11/22
- メディア: 新書
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本書によれば、15世紀末の「スンマ」出版に先立つこと300年、13世紀始めのイタリアにすでに両替商の帳簿がなされたいたと。そして、14世紀には複式簿記としての形はできていたのだと。本書は、かなり専門の会計史というか、書史というか、本そのものに対する興味が先行して書かれている。大航海時代から産業革命に至る国家事業から民間事業への大きな変遷の中で複式簿記がどのようにしてIR、出資者、関係者への情報開示としての機能、そして、経営者のツールとして進化してきたかをあまねく伝えている。
Amazonのこのコメントが秀逸。
構成としては共同経営者との利益の分配に始まり、出資者への報告、さらに大西洋を挟んだ取引が貸借対照表から損益計算書への重心の移動を促し、そしてキャッシュフローへとつながる一連の歴史が簡潔明瞭に語られます。そして終章は会計の本質である損益の説明が未来会計によって揺らぐ現在の状況への不審感で締めくくられます。中世の冒険企業が船を仕立てる度に出資者を募り、無事帰って船荷を売却して口座を締切清算する時代から、都市間交易で商会間の取引がそれぞれの借り方貸方に記載され、大陸間での取引では費用化が進み、鉄道などの大資本集積のため出資者保護の仕組みが作れられ、同時期に利益の源泉の追究がはじまり、とんでエンロンなどに見られた仮想の利益で会計制度の信頼を損なう姿を嘆いているとも言えます。
Amazon 会計学の誕生-複式簿記が変えた世界 (岩波新書)