HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

「神への長い道」と日本のSF発想の欠如

小松左京の作品をKindleで読める。この手軽さは、まさに子供の頃読んだSFの世界。SFだった世界が21世紀の今まさに現実になっている。

本書のタイトル作品、「神への長い道」は長らく探し続けた作品だった。ずいぶん前に読んで、日本の少子高齢化の未来はこんなに簡単に自殺してしまう人々が増えるのだろうと想った。科学技術の進歩と普及により、働かなくても生きている社会。しかし、未来に希望はない。そんな状況では人は簡単に死ぬ。

もうひとつ、ここに出てくる未来人のコミュニケーションの方法が大変ユニークだった。大変な高速で話す未来人達の議論とは、幾人かが同時に一方通行で話すだけ。ただ、その場のいわば「タイムライン」で拾える意見があれば自分の話しに取り入れるのだと。実は、その方が順番に話すよりもコミュニケーションの効率がいいのだと描かれていた。これは当に現代の携帯や、ブログ等のコミュニケーション方法ではないだろうか?

未来人達は、その境界すらも常に入れ替わるという描写があったように記憶していたのだが、これはウェルズの「タイムマシン」刊行百周年記念公式続編「タイムシップ」と一部記憶が混乱してたのかもしれない。こちらの「未来人」の姿が暗喩する未来型の人格の在り方も実に示唆するものがあった。

タイム・シップ〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

タイム・シップ〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

タイム・シップ〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

タイム・シップ〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

日本のSF界隈が実に残念だなと想うのは、SF的なガジェットや、SF的な登場人物はライトノベルなどの分野で一般化したものの、60年代からバブル期くらいまでの「ハードSF」と呼ばれる発想自体が実に斬新な小説群がいまの日本には見当たらないことだ。パニックものとして定着してしまった、「日本沈没」は故竹内均先生自ら出演されるほど地学的な裏付けと大胆な発想に基づいていた。上述の「神への長い道」もネタバレは避けるが、実に人間の本質に迫る発想が内包されていた。光瀬龍の「百億の昼 千億の夜」は言うまでもなく。星新一も、筒井康隆も、そのSF発想にこそ真価がある。あっと言わせるようなSF小説をぜひ読みたいものだ。

日本沈没 決定版【文春e-Books】

百億の昼と千億の夜 (秋田文庫)

ボッコちゃん (新潮文庫)

筒井康隆全集 (10) 家 脱走と追跡のサンバ

ちなみに、ちょっと空港のペーパーバックを眺めている程度の知識しかないが、いまだにハードSFは売れている。と、いいながら旧いネタで恐縮だが、「ハイペリオン」は当時大変なベストセラーになったと聞いている。

hpo.hatenablog.com

イーガンも売れているのではないだろうか?

hpo.hatenablog.com

米国のスパコン量子コンピューターこそ宇宙空間でなどSF好きの発想だと私は勝手に解釈している。

AIや自動運転 「量子」が突破口 演算速度1億倍  :日本経済新聞

確かに未来を感じる。なんだっけ、人の頭を絶対零度で並列につないだ量子コンピュータとかSFに出て来てた。そんな話すら現実に。ついでに安定した絶対零度環境は宇宙空間かも。

2017/08/12 16:23
b.hatena.ne.jp

スパコン宇宙で耐久実験 米HPE、火星探査想定  :日本経済新聞

と、ついっとしたら、もうそれこそ現実に。すごいぞ二十一世紀!

2017/08/12 16:25
b.hatena.ne.jp

話しがだいぶずれたが、ライトノベルな現代日本にかつをいれるためにも、小松左京は再評価されていい。いや、自分でもっと過去のSFを発掘してみたい。


■参考

togetter.com