HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

「あなたはだぁれ?」

ひさしぶりに「天使のたまご」の話題を読んだ。懐かしい!

押井守が天野喜孝と1985年に作成した、難解すぎるアニメ作品「天使のたまご」を知っていますか? | BUZZAP!(バザップ!)

「あなたはだぁれ?」の少女の問いかけが耳について離れない。 http://hpo.hatenablog.com/entry/20040511/4

2017/06/04 23:36
b.hatena.ne.jp

押井守監督の「天使のたまご」というのがあった。たまごをだきながら、孤独に生きている少女と出会う少年。少年に少女は何度も問いかける、「あなたはだぁれ?」。少年は決して答えない。この少女がだれだったのか、もの少年が誰だったのか、その名前すらも、私にはいまだにわからない。

あなたがあなたであるためには - HPO機密日誌

で、気になったのはこのぶくまのコメント。

押井守が天野喜孝と1985年に作成した、難解すぎるアニメ作品「天使のたまご」を知っていますか? | BUZZAP!(バザップ!)

あれは別に難解ではないよ、退屈ではあるけど。個人的にはかなり好きな作品です。あとから鈴木清順の引用が多過ぎることに気づいて愕然とするのだが。

2017/06/04 09:15
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鈴木清順って「あの」鈴木清順

鈴木 清順(すずき せいじゅん、1923年5月24日[1] - 2017年2月13日[2])は、日本の映画監督、俳優。本名は鈴木 清太郎(すずき せいたろう)[1]。弟に元NHKアナウンサーの鈴木健二がいる[1]。
日活の専属監督として名を馳せ、小林旭高橋英樹宍戸錠らを主演に迎えた。『殺しの烙印』は一般映画のみならずカルト映画としても世界的な評価が高い。『ツィゴイネルワイゼン』、『陽炎座』、『夢二』の三部作では幽遠な映像美を見せた[3]。その独特の映像表現は「清順美学」と呼ばれた。

鈴木清順 - Wikipedia

で、調べてみた。

 TVアニメ『ルパン三世』第2シリーズに「監修」として、鈴木清順の名前がクレジットされているのを見た時には、これは本当にあの鈴木清順なのかと驚いたものだった。

(中略)

 清順監督の「監修」という立場がどの程度のものだったのか、名前貸し程度に過ぎなかったのか、長らく謎ではあったが、飯岡順一の『私の「ルパン三世」奮闘記』によって、毎回シナリオ会議に参加して指示を出すほどに熱心に関わっていたことが語られている。原作やアニメ初期のシリアスさこそ失われてしまったが、破天荒なエンタテインメント性は、清順グループによって支えられることになったのだ。

(中略)

 テレビシリーズで手一杯な清順グループは、脚本として参加することしかできなかったが、あろうことか、宮崎・大塚コンビは、この(長編映画ルパン三世 ルパン対複製人間』の)第一稿を無視して勝手にプロットを変更してしまう。もっとも、江戸川乱歩『幽霊塔』をモチーフとした展開はそもそも清順グループの脚本にもあったもので、宮崎・大塚が行ったのは、露骨な「クレジット外し」であった。

追悼・鈴木清順監督/ルパン三世に敗れた職人監督 | mixiユーザー(id:1846031)の日記

うわ、これって宮崎駿黒歴史?リンク先の良記事では、さらに鈴木清順グループと宮崎駿達をめぐる確執ともいうべきやりとりが描かれている。

そして、ここによく語られる宮崎駿押井守のルパン製作をめぐる歴史がからんで来る。

(1984年頃)当時、スタジオぴえろを辞め、フリーとなっていた押井は宮崎駿監督の事務所に“居候”していた。そこに『ルパン三世』の映画企画が持ち込まれ、宮崎が押井を紹介したことから、この企画がスタートすることになる。

(中略)

このような(宮崎駿の)問題意識を受け継いだ押井は、ルパンになにを盗ませようとしたのか。押井はそこで実に押井らしいものを盗ませようと考えた。それは「虚構」である。

(中略)

物語を牽引するマクガフィンとなるのは。「天使の化石」。これは言ってしまえば虚構の象徴である。この化石は世界各地を転々とした後、ある建築家が東京に建設した塔の上に収められているという。これがルパンのターゲットとなる。

(中略)

 「全て事件が終わった段階で次元と五右衛門が撤退するわけです。その時、ルパンはいなくなっていて、ルパンはどこへ行ったんだ、という話を目論んだんです。(略)もしかしたらルパンは最初からいなかったんじゃないか、ということの結論が得られれば、最終的にルパンにとどめを刺せると思ったんです。宮さんが僕に期待した役割はまず間違いなくそうだったはずなんです。(略)自分はやりそこなったけど、自分より後の世代であるあんたの手でルパンに引導を渡せ、ということだったと僕は理解している」

(中略)

とはいえ、ここにおもしろい問題が潜んでいるのも確か。
 たとえば、宮崎が『ルパン三世[新]』最終回「さらば愛しきルパンよ」で、偽物のルパンと、正義の人銭形に扮した本物のルパンを描いていること。

かくして、「天使のたまご」の「あなたはだあれ?」は、鈴木清順宮崎駿押井守の三つどもえを象徴するセリフであることがわかる。セリフ自体は宮崎駿がアニメ界からいわば追放した鈴木清順の流れであるし、「天使のたまご」は間違いなく宮崎駿が押し付けたが流産した押井ルパンのなれの果てなのだ。そう考えてみると、「攻殻機動隊」、「パトレイバー」とヒット作品を産んではいるが不遇としかいいようのない押井のいまの状況が70年代、80年代のアニメ界隈の歴史の結果であると言えるのかも知れない。

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