中埜先生のご著者の議論の射程は鋭く長い。
ハンチントンの「文明の衝突」を以下のように要約されていらっしゃる。
近未来の世界にとってもっとも重大な脅威は、「非西欧」文明の中に形成される「儒教・イスラム・コネクション」である。簡単に言えば、これは中国とアラブの連携である。そしてこのコネクションは「文明」のレベルにとどまらず、「非西欧」の権力意思によって「軍備」のレベルへと強化される。
- 作者: サミュエル・P.ハンチントン,Samuel P. Huntington,鈴木主税
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1998/06
- メディア: 単行本
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90年代以降の現代史を見るに、米国は多大な犠牲を払いながらも、中東諸国と中国が結びつく事態は回避できている。そう見ると、中国が仕方なくアフリカまで出て行ってまで商売をする理由も見えてくる。
いずれにせよ、エートスという「特殊性を持った非合理な禁忌」がいまだに世界を動かしていると。冷戦構造が崩壊した後に、各国、各民族のエートスが表出してテロが類発することを予見している。しかし、ハンチントンの予見はあくまで西欧諸国に連なるエートスに基づくテーゼにすぎないと。
たしかに、現代は西欧の哲学、伝統、政治、科学技術に圧倒されている。中埜先生は、西欧の伝統の中の精華である「自然法」についてこう書かれている。
したがって自然法という思想構造は、西欧の合理主義的エートスによって形成されたのである。ここにも、ロゴスのエートス性が見られる。つまり自然法は「普遍」を強く志向し、まさにその点においてかえって「特殊」であったわけであるから、「特殊な普遍」というパラドックスを内蔵していたとも言えるであろう。あるいはここで、真実の「普遍」である「普遍的普遍(ロゴス的ロゴス)と擬似的な「普遍」としての「特殊的普遍(エートス的ロゴス)」とを区別することができるかもしれない。
つまりは、現代はネットや、迅速な交通機関により時間的には全ての事件にみんなが「証人」であると信じてしまう世の中であると。しかし、本当にその構造的な「普遍と特殊のダイコトノミー」が機能しているかははなはだ疑問であると。
真摯に受け止める中埜先生の思想、哲学である。