HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

超大型温泉ホテルの悲劇

あまりのことに言葉を失った。

べき乗則べき乗則といいすぎかもしれないが、小さきものへの慈悲を失ったものの末路を感じる。

私の知人が温泉ホテルの話をしていた。昔は、温泉街でどこもすべてを自分でかこいこむことなしに、不完全ながらもある程度役割をわけて街として栄えていた。ところが、超大型温泉ホテルが建設され、温泉も、食事も、そのあとのお楽しみも、すべて自前でまかなうようになった。この温泉ホテルは一時は栄えたが、周りの温泉街は次第にすたれていった。そして、気がつくと温泉街が荒廃し、その温泉自体の地名度もうすれ、次第に当のホテルも苦境に陥っていった。温泉街については、バブル崩壊が原因だといわれているが、実は九州のいくつかの温泉のように街全体で活性化をめざし、集客力をとりもどしたところもあるという。私が大好きな滋賀の長浜もこうした例に加えてもいいのかもしれない。

べき乗則と首都圏経済白書: HPO:個人的な意見 ココログ版

「人は原子、世界は物理法則で動く」には、ここで私がぼんやり感じてたことを実証的に書いてくれている。

数年前、ワシントンにあるシンクタンク、ブルッキングス研究所の社会学者ロバート・アクステルは、当時アメリカで活動していた500万社を超す営利企業の統計的分析に着手した。規模−−−総売り上げをSで表した−−−ごとの企業数を調べたアクステルは、そこに注目に値するべき乗則のパターンを見出した。総売り上げがSの企業数は文字通り1/S^2に比例するのだ。

(中略)

実を言うと、企業の成長速度も別のべき乗則に従うことがわかっている。成長速度の変動は、規模の大きな企業のほうが規模の小さな企業よりも小さく、しかもこの場合も、厳密な数学形式に従っている。理論が受け入れられるためには、企業が絶えず消長を繰り返すことも無理なく説明しなければならない。ゼネラル・モータースやエクソンは、経済という風土の中にいつまでも消えることなく残る代表的存在のように見えるかもしれないが、これらの企業といえども、そう安閑としていられない。1980年時点で上位500に入っていた大企業のうち、現在まで残っているのは半分以下にすぎないのである。

人は原子、世界は物理法則で動く―社会物理学で読み解く人間行動

人は原子、世界は物理法則で動く―社会物理学で読み解く人間行動

本書の原書は、2007年に刊行されている。そして、今年2009年の春にゼネラル・モータースは破たんした。実にべき乗則的な事件であった。

ロングテールと呼ぼうが、ファットテールと言おうが、長い長いしっぽに属する企業やお店を大切にしない街は滅びて行くのだろう。長い長いしっぽの中から、急速に成長する企業がでるかもしれない、でないかもしれない。それでも、そうした存在が実は経済社会という生態系を安定化させている。そぞろ歩きのできる温泉街があるからこそ温泉ホテルは存在できるのだ。

アマゾンのロングテールは、ほとんど文字だけの存在で在庫コストが小さいからしっぽの先の先でも生きている。しかし、店舗や企業はその生存コストを下ってしまうとカットオフされ、消滅してしまう。下草のような店舗や企業が枯れ果てた澤には、もはや大木のような大企業も存在しえなくなってしまう。

焼津の話はあまりにも悲しい。