ブラックスワンを根気よく読んでいる。この本はかなり素晴らしい。リスクとか、投資とか、経営などに責任を持つ人には今後必読の書になるだろう。
The Black Swan: The Impact of the Highly Improbable
- 作者: Nassim Nicholas Taleb
- 出版社/メーカー: Random House
- 発売日: 2007/04/17
- メディア: ハードカバー
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finalventさんのところで、コメントさせていただいた。散漫だが、私の第一印象だ。
finalventさん、こんにちは。「The Black Swan」読み始めました。すんごいおもしろいです。まだ60ページほどしか読んでいませんが、ポパーの問題と確率の問題がかなり出てきています。そして、ブラックスワンの現れる前後のまさに物語の了解というか、人は未来を予測できなさ性というか、そういう問題意識がベースにあります。そこには、タレブの経験した平和だったレバノンが内戦状態になってしまった顛末と、自身の癌を克服した経験ががあり、彼に深い洞察を与えているようです。empirica という言葉がよく出てきて、Platonicityということばで演繹といか、抽象化というか、イデア化と対照的に使われますが、これはもう禅の世界ではないかなと。なにを申し上げたいかというと、finalventさんのブラックスワンの認識は非常にタレブの言っていることそのものだと思います。
シンクロニシティについてちょこっと - finalventの日記
これからもうちょっと読み進めた。それでもまだ300ページあるうちの100ページくらい。
肝心のブラックスワンの生成の理由はまだあとに書く。その前に書きたかったのは、タレブの方法論についてだ。
タレブは、随所に「瞑想」とか「瞑想散歩」とかいう言葉を書いている。また、本書の中に出てくる「懐疑的経験主義」という方法論は、自分自身の会社を「エンピリカ*1」と名付けるくらいタレブにとって重要なのだ。本書でタレブは、人が思いつきで動くことを、自分が自分の生きる糧を得る方法ではふかくいましめている。人は自分が思いついたことに強く執着する。執着は、間違いを生む。信じられるのは、経験から帰納されたことがらであり、経験主義(empirical)なことでさえも懐疑的にながめつづけこれでもかこれでもかと自分から遠ざけなければならないと書いている。
ここで思い出すのは、安冨先生のふたつの創発だ。
生きるための経済学―“選択の自由”からの脱却 (NHKブックス)
- 作者: 安冨歩
- 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
- 発売日: 2008/03
- メディア: 単行本
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よく交通渋滞から、ネットワークのハブから、べき乗則的なふるまいをする現象を創発だといいがちな風潮がある。しかし、安冨歩先生は、「貨幣の複雑性」で見出したネットワークによる生成と消滅のメカニズムは、マイケル・ポラニーの言う「暗黙知の次元」、「創発」とは違うのだと指摘している。前者は「協同現象」であると人の叡智の発言とはもとから違うものなのだとされている。
タレブは本書の中で、正規分布を批判し、べき分布について多くの記述をしている*2。べき分布こそが、ブラックスワンが現れた社会を記述する方法だ。べき乗則で語られる複雑性を持つ現象の多くは、実は安冨先生がポラニーの創発ではないと断じた「協同現象」の部分なのだ。そして、このべき乗則による「協同現象」と心理学的なさまざな要因がブラックスワンを生む「巣」になっている。
そして、私は安冨歩先生の創発こそがタレブの「瞑想による懐疑的経験主義」なのだと信じている。
それとも、安冨歩先生とタレブに相似性を見出すのは、私も「物語化」というトラップにはまっているということになるのだろうか。
*1:いうまでもなく、経験主義、empiricalからの造語。