HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

成功した革命としての2.26事件

finalventさんの「農地改革メモ」を読んで、以前書いたものに手を加えてみたくなった。

先日、「亡国マンション」を読んだ。

亡国マンション The Truth of Defective Condominiums (光文社ペーパーバックス)

亡国マンション The Truth of Defective Condominiums (光文社ペーパーバックス)

本当に地価を高く維持しようという意思をもった執政者がいたのか、いるとすれば誰なのかぼんやり考えていた。先日、都内へ行った時、超一等地にたつピカピカの高層ビルを見つけた。ああ、そうなのかもしれないと想った。

それは北一輝から始まる。

当時、肥大化した資本家、世襲的政治家が権力と富を独占しているように一般大衆レベルでは考えられていたようだ。一方で、理想主義的だった若手官僚と軍人たちは、自分達のふるさとである困窮する地方を救わなくてはならないという切実な危機感をもっていた。彼らは資本主義のゆがみを感じ、アンチテーゼとして社会主義的な理想をもったのだろう。尾崎秀実がどれくらいこうした流れに共鳴したのか、手記を読んだ程度では分からない。わかるのは、2.26事件というクーデターが起こり、日本は北を攻めずに南進した。そして、全体主義的な動員をかけた戦争に敗れ、GHQの統治が始まった。GHQの改革は、税制から、農地改革、財閥の解体、などにおよび奇妙なくらい北一輝や戦前の若手官僚と軍人が主張していた方向への政策が打ち出され、実行された。

大東亜戦争とスターリンの謀略 @ HPO
敗北を抱きしめて @ HPO

私はこうした流れがとても奇妙に思えてしかたがなかった。

2.26事件は成功したクーデターだったのだと仮定して、敗戦は勘定にいれないで2.26以後の歴史を連続したものだと見ると、いままでとは違う歴史が見えてくるような気がしてならない。その歴史を一言でいえば、「士農工商」社会の実現ではないだろうか?多少誇張して言えば、人口のほんのコンマ数パーセントの世襲閨閥の政治家が「大名」階級にあたるのではないか?そして、人口の2%あまり、260万人の中央官僚が武「士」階級となる。以下、すでに就業人口の6%を切った「農」業従事者が地方では地主階級として力を持つ。財閥解体後に、官僚と共に力をつけて、日本を支える伝統的製造業者たちは「工」の末裔だろうか?そして、一番下の「商」にあたり、政治的な力もなく、まとまった土地も持たない、現代の無産階級とも言えるのが、自分の才能と努力を頼みに額に汗して働くサラリーマンであろうか?

一般人口統計 −人口統計資料集(2005年版)−労働力
農業就業人口

ごく少数の例外を除き、2.26事件以来こうした「士農工商」構造の権力構造を超えてエスタブリッシュメントといえるほど安定した力を手に入れた者が日本にいるのだろうか?一部の商工業が予想外に進歩したことを除けば、2.26当時の若手官僚と若手軍人が理想とした姿が戦後現実のものになったのではないか?

自民党も、実は「農」民党なのだと考えれば、これまで戦後の政治を牛耳って来ることができた理由が理解できる。社会主義でもなく、自由主義でも資本主義でもなく、「農」本主義の国として戦後の歴史は推移したのではないか?

こうした視点をとることによって、「亡国マンション」著者の、戦後の都市計画、金融政策などが総合的に地価の上昇への異常な志向がったのだという主張を理解できる。たとえば、都市計画法における市街化調整区域という「農」民だけが所有し、建築物を建てられる地域を設定することにより、現在では人口の数パーセントでしかない農業従事者のみが国土の利用可能な土地の7割、8割を独占的している。税制上も、狭小だが評価額の高い宅地を相続していくのは至難のわざだが、広大な農地は農業振興区域などの制度によりほぼ何代でも相続可能だ。金融政策上も、戦前の借家主体の住宅政策から持ち家助長政策に転換したといえる。土地の希少性をつりあげ、国民の持ち家志向を助長することにより、地価を上昇さえ、土地所有者に圧倒的に有利になってきた。

以上は、全く私の妄想かもしれない。

もし、私の妄想に幾分かでも真実があったとしても、成功した革命としての2.26事件から流れ出たのかもしれない戦後の歴史を私は否定したいのではない。戦前から戦後の様々な状況を考えれば、日本が社会主義国家になってソビエトの指導を受けるような事態を回避するためには、政府与党と官僚側が社会主義的政策を実施しなければならなかった事情もむしろ納得できる。ただ、これからを担う後継者の誰も何故いまの姿があるのかという歴史認識を持たずに現在の日本の状況が推移するなら、これからますます大きな矛盾を日本人が抱え、解決できない状態に陥ることたを恐れる。

この視点の先にfinalventさんの指摘される「改廃」があるように想われてならない。

■農家はすでに農家でなく不動産業になっているのでは?

bewaaadさんのような優秀な方の論に異論を唱えるような力は私にはないが、農家の主な収入はすでに農業そのものでもなく、兼業の月給でもなく、土地の売却益や地代、各種組合事業等からの収入ではないのでしょうか?

零細兼業農家はまともなコスト計算をしていないからこそ農業を継続しているのであって、そろばん勘定だけで考えれば農業をしていない方が豊かになります

問題なのは、なぜ農業においてこそ土地の所有と経営の分離がはたされず、補助金漬けになることによっていつまでも生産性の低いまま捨て置かれたかです。各地のJAで経営のよいところは、「えっ、こんなところに農地があるの?」と思うような都市部にあるのはなぜかです。

■追記

うーむ、やはりというべきか。

昨年、当ブログで紹介した岩波の新刊は(100冊中)1冊だけ。その質の低下がひどい原因は、もはや絶滅危惧種になった、こういう「岩波文化人」(多くは大月・青木書店とオーバーラップする)を無理やりさがして書かせるからだ。

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ダワーをどう評価するのかな。

敗北を抱きしめて〈上〉―第二次大戦後の日本人

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敗北を抱きしめて〈下〉― 第二次大戦後の日本人

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