もう目から鱗がぼろぼろ落ちている。日本の近代史を財政の立場から見るとこうなるのかと。もう、「おわりに」の1ページを読んでしびれた。
先の戦争に突入した時の彼我の経済力の較差は、実は、多くの面で日露戦争の時よりも小さかった。日露戦争開戦時、鋼の生産はロシアの150万トンに対して日本は数万トン、銑鉄もロシアの220万トンに対してやはり数万トンであった。これに対して日米開戦時には、石油の生産量の日米格差こそ738対1であったが、鋼の生産量は米国の7500万トンに対して日本は700万トンであった。そして、足りないとされた石油も南方の要地をおさえれば確保できるとして開戦が決定されたのであった。
しかしながら、日露戦争は日清戦争後に確立した金本位制や日英同盟を背景として欧米金融市場での戦費調達が期待できた戦争であった。それは、経済的に世界で孤立し、日満華の資源だけで闘わなければならなかった先の戦争とは全く異なるものであった。ましてや、日露戦争は経済的に敗戦国になった状況で突っ込んでいったこのではなかった。高橋是清を暗殺した後の軍部には、経済的に見た場合のそのような日露戦争との違いの認識すらなかったのが先の戦争であった。
- 作者: 松元崇
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
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で、実際に圧倒的な資料を基に明治の始めから財政の歴史を解き明かした上で、高橋是清の登場となる。途中までの感想に過ぎないが、欧米列強、特にロシアの南下に以下に対抗するかという観点で税制、通貨制度、国債発行などの広い意味での財政が行われていたことが明確に伝わる。戦争が金融市場を進化させてきたのだ。日本もその例外とはなりえない。逆に言えば、日中事変、太平洋戦争、敗戦へと突っ走った日本とは、高橋是清を殺した2.26事件のテロに政治家が屈した結果なのだと。総力戦の「総力」とは財政を抜きにはあり得ないことが軍部には理解できなかったのか。実に残念。
本書を薦めてくださった、Sさんにこころから感謝もうしあげたい。Sさんが以前進めてくださった岸田秀の「日本がアメリカを赦す日」といい、本書といい、良書中の良書をいつも教えてくださっている。持つべきは友だなと。
- 作者: 岸田秀
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
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作者の松元崇さんは、東大法学部、同大漕艇部出身の大蔵官僚。やはり、日本には優秀な方がいらっしゃる。
ページをめくるたびにしびれっぱなし。読了して改めてエントリーを起こしたい。