HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

「顧客の人生」を左右する仕事

マンションの杭の問題が飛び火して住友不動産熊谷組のマンション事案も全棟建替になると伝わった。こちらの事案は、問題のあった棟だけの建て替えと伝わり、住民側との折衝も順調かと想われていただけに衝撃。

www.nikkei.com

この問題は、以前の三井不動産三井住友建設の事案と同型。

hpo.hatenablog.com

今回も、法律で定められた建築物の瑕疵担保期間の10年を超えている。ウェブ上の写真や記述から判断するに、問題の棟は間口40mほどに見る。40m間口で10cmの「ずれ」が生じていると報道されている。平成12年の建設省告示の不同沈下等に関する1000分の3を当てはめると、

40m × 3/1000 = 12cm

となる。普通の感覚ではどうかと言われると答えに窮するが、法律的にはセーフとこれまで言われてきた。熊谷組の発表によれば、支持層まで到達していないとされる杭の地盤の反力等を考えると構造計算上は耐震性は確保できてるという。世間的には全棟建替が評価されるとは想うが、法律で定められた責任範囲を超えて、賠償、建替が認められると考えると、これからの建築業界の在り方が問われる事案となる。*1

あるマンション施工大手の幹部は「本当に全棟を建て直す必要があるのか。法廷で議論し、判例を残してもらった方がよかった」と漏らす。

ゼネコンを覆う「全棟建て替え」の恐怖 :日本経済新聞

はてぶのコメントは、全くその通り。

でも予測し得ない瑕疵が発生してるわけではなくて手を抜いたのならやり直せってだけの話なのでは。判決確定まで何年も待ち,それから工事を始めて完成まで何年?顧客の人生に想像が及んでいない。

はてなブックマーク - ゼネコンを覆う「全棟建て替え」の恐怖 :日本経済新聞

以前から分譲マンションの施工は、「山より大きなイノシシが出る」と言われてきた。場合によっては受注高を超える瑕疵担保責任が発生するという意味だ。まさに建築の仕事は「顧客の人生」を左右する仕事であると。よくよくここに想いをしなければ仕事はできない。仕事をする資格はない。

他方、大手ゼネコンですら窮するほどの施工責任が当たり前となれば、分譲マンションの単価は上昇する。もしくは、誰も施工できなくなる。ということは、新築マンションが減り、中古マンションの価格が上昇する。もう少し、想像を働かせれば、都心部の人口集中の緩和になるかもしれない。「天空の城」の「土から離れては生きられない」ということか。

*1:この記事を書いた時点で明白であったが、結局杭の問題から地中梁のコア抜きの問題がクローズアップされ、一気に紛糾している模様。  熊谷組社長が謝罪も紛糾、全棟建て替えの住民説明会|日経アーキテクチュア 平成28年3月9日追記