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HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

建築物の傾きと瑕疵担保期間

マンションの杭の問題が大きく取り上げられている。データの偽装については、もうなんでこんなことが杭の施工で行われてしまったのかか信じられない想いだ。このデータ偽装をした担当者のしたことは、ほとんど建設業界に対する信頼を失わさせる「サボタージュ」、「テロ」だ。耐震偽装以来、建築業界への信頼性が大きく失われる事件が再び起こったことは誠に反省すべきことだ。

その上で、建築に関わる上で、2つのことは理解しておくべきだと私は考える。すくなくともこの事件の報道の前提となるべき建築の常識である。

大変残念ながら、建築物の施工において完璧というのはなかなかない。多くの人が関わり、多層の指揮命令系統が入り乱れ、工業製品から木材まで多くの部品が「現場」において組み立てられる。これは、仮に一社で(たとえば昔々の中国の公社のような国営企業ででも)川上から、施行の現場まで全部を施行できたとしても、状況は変わらない。部品数、工程数があまりに多い。完璧な施工ができなくとも、一定以上の品質は担保されなければならない。このため、国土交通省の告示というガイドラインや、住宅瑕疵担保制度、住宅の品確法が設けられている。

先ず一つ目は、平成12年建設省(現国土交通省)告示の存在。

3/1000未満の勾配(凹凸の少ない仕上げによる壁又は柱の表面と、その面と垂直な鉛直面との交差する線(2m程度以上の長さのものに限る。)の鉛直線に対する角度をいう。以下この表において同じ。)
の傾斜=> 構造耐力上主要部分に瑕疵がある可能性 : 少ない

○住宅紛争処理の参考となるべき技術的基準 平成十二年七月十九日建設省告示第千六百五十三号

これは、一般に竣工した建築物において1000分の3以下の勾配は許容されるものと理解している。ケンプラッツの今回の関連の記事へのコメントにもこのことが書いてあった。

(2)このような事故(今回は50m建物の端で、2.5cm下がった、1/2,000の不同沈下に過ぎず、まして傾いているわけではない。外壁に構造亀裂でもあれば別だが。
 この程度の不同沈下は、探せばいくらでも出てくるのではないか。
 万一、マスゴミの(言うが)ごとく、傾いているとしても、『50m方向ゆえ』倒れる訳がない。

旭化成が会見、現場代理人は「支持層に到達と記憶」|日経BP社 ケンプラッツ

*1

もう一つは、瑕疵担保期間と保険の問題。建設の場合、四会(民間)連合約款、民法の定めの通り、基本的に10年だということ。住宅瑕疵担保保険が10年なのも民法に由来する。今回の旭化成建材の施工物件リストが10年以内のものだけなのも、このためであると考える。

民法の規定では基本的に瑕疵は全て補償対象です。壁紙が破れてても瑕疵ですから補償対象。瑕疵を発見した時より1年以内に補償、補修などを求める事になっており最長引渡しより10年間の担保期間があります。

至急ご教授ください。瑕疵担保期間の民法上の「10年」と民間(旧四... - Yahoo!知恵袋

今回のマンションにお住まいの方々がここに来て、強く三井不動産レジデンシャル社に対応を強く求めたのも、瑕疵担保期間の限度が迫っているからだと想われる。しかも、このマンションの完成が平成18年と聞く。住宅瑕疵担保履行法の成立のぎりぎり前。保険制度では「構造耐力上主要な部分および雨水の浸入を防止する部分の瑕疵」に適用され、瑕疵の原因追及に関わるコストについて保険がおりる。ただし、上述の通り、保険に入っていても、傾きだけでは「構造耐力上主要な部分の瑕疵」と認められるかは微妙ではあったが。

 平成21年10月1日より、住宅瑕疵担保履行法がスタートしました。この法律は、新築住宅を供給する事業者に対して、瑕疵の補修等が確実に行われるよう、保険や供託を義務付けるものです。

住宅瑕疵担保履行法について

特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律(平成19年5月30日法律第66号)は、日本の法律の一つ。新築住宅の売主等による特定住宅瑕疵担保責任(住宅品質確保促進法94条・95条)の履行を確保するため、あらかじめ売主等に保証金の供託または保険への加入を義務付け、また、当該保険にかかる紛争の処理について定めたものである。

特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律 - Wikipedia

こうした背景があり、三井不動産レジデンシャル社、三井住友建設の対応が後手後手に回ってしまったということは理解すべきであると考える。ここまでのところ、データの偽装、結果として杭が支持層に達していない可能性があるということを、どのように法律上で責任を持たせるかは微妙だと言える。法的な責任が明確でない状況において、三井不動産レジデンシャル社が傾きのない、瑕疵のない棟まで全てを建て替える決断をしたのは、業界のリーダーとして信頼回復への大きな貢献だと受け止めたい。

以上、私の理解もなまなかなものである可能性があるので、問題があればご指摘いただきたい。

資産価値を著しく毀損されることになってしまった同マンションの方々には心から、一日も早い安心、安全の回復をお祈り申し上げる。

*1:()内は本ブログが補った。