HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

「奇子」の前提条件

Kindleのお陰で、断片的にしか読んだことのなかった「奇子」を全部読めた。Kindle侮りがたし!戦争直後の昭和24年から作品発表時点の昭和40年代後半まで、戦後の時代の風俗、事件を盛り込んで描かれている。で、改めて手塚治虫の同時代人が当たり前の前提としていたことがなんであったか、平成26年のいま読むことにより浮かび上がってくる。

この物語の背景には、まず下山事件がある。そして、手塚治虫が断定するように、GHQの影がこの事件には色濃く感じられる。

そもそも柴田の取材は、この祖父が下山事件に関与していたかもしれないと親類から聞かされたことから始まった。祖父の勤めていた亜細亜産業という会社は、GHQのキャノン中佐と深いかかわりを持ち、その下請け機関として数々の非合法工作に関与していたというのだ。

替え玉? 自殺? アメリカの謀略? 戦後最大級の未解決事件・下山事件2 - エキレビ!(1/4)

これはもうそのまんま劇中の「霜川事件」であり、天外仁朗だろうと。

手塚治虫世代の人間が当たり前だとおもっていた衝撃的な「前提条件」は、GHQの幹部は日本の国を私物化していたということだ。

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奇子 1

ちなみに、このシャグノンは実在の人物。

松本清張が『日本の黒い霧』シリーズで、「下山国鉄総裁謀殺論」を発表したのは、事件から十一年後の昭和三十五(一九六〇)年のこと、下山定則の怪死に はGHQ(連合国軍総司令部)が関与しており、謀略だったと推理して世間を驚かせた。以来、GHQ首謀説がほぼ定着し、今日に至っていると言っていい。(中略)国鉄総裁としての彼が、あくまで独自の立場で、GHQまたはシャグノン(GHQの中佐)案に抵抗したからであろう」と結論づけ、謀略 の事実は「世界における日本の位置が変更せぬ限り、永遠に発表されることはないであろう」と展望した。

熊井啓への旅

松本清張の「黒い霧」は昭和35年手塚治虫の「奇子」は昭和47年発表。当然、手塚治虫松本清張を当時の常識として下敷きにしたのだろう。

その他、天外の家系の乱脈ぶりは、「白蓮れんれん」の福岡の炭鉱王、伊藤伝右衛門家にそのままつながるし、天外仁朗があゆんだ広域暴力団とはそのまま朝鮮系が主な構成員であったという話しなど、手塚治虫の子どもの世代にあたる我々にはあうんの呼吸では伝わらなかった当時の「前提条件」がたくさんある。


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