HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

距離、時間、そして統治と戦争、ふたたび

ブログを初めてまもないころ、そう十年近く前、「距離、時間、そして統治と戦争」というエントリーを書いた。個と個の距離が近づくことで、進化と社会の進化を俯瞰できるのではないかという直観をできるだけ言葉にする試みであった。

通信手段、移動手段のテクノロジーの進歩をひとつの主権、政治単位が統治できる大きさと比較して考えてみるとおもしろいかもしれない。歩ける範囲の間の直接の話合いで意志決定される部族、馬で移動できる通信できる範囲の部族の連合体、組織的な通信手段をもった都市国家、機械力による移動通信手段による国家、そして、ありとあらゆるコミュニケーション、混血、交通網をベースとした現代国家と国家連合。2000年の間の歴史を、通信移動手段でとらえると、統治可能な、意思決定可能な距離が、統治単位の大きさを決定し、移動手段の進歩が戦争の範囲を大きくしたと、理解することが可能だ。

距離、時間、そして統治と戦争: HPO:個人的な意見 ココログ版

一方、同じ頃自然がレイヤーを形成していて、それらが本質的に調和している様子を高校生のころ直観したことも言葉にしようとした。いずれの試みも、あまり成功したとは言えないが。

高校の頃、学校に額がかけてあった。

麗澤とは太陽天に懸かりて万物を恵み潤すの義や

創立者の書かれた「易経」からの引用だということだった。三年間毎日読んではいた。意味もわからず、ただ目には入っていた。高校時代、別に特に悩んでいたわけでもなく、人生に絶望していたわけでもない。かと言って、最高にハイな高校生活でもなかった。たんたんと高校生活が過ぎて行っていた。そんなある日、いつものようにこの額を見て、突然太陽の恵みによって、文字通り麗しい澤のようなところで生かされていると直感した。額の言葉通り、太陽が空にさんさんと輝いて、日の光の恵みのもと、澤に流れる川のほとりでアメンボや、つぐみや、リスなどが、調和して生きている、生かされている情景を「体験」した。

「生きがいについて」読了 - HPO:機密日誌

最初のページを開いた瞬間から予想したように、「流れとかたち」の「コンストラクタル法則」という考えにおいてこの二つの直観がきちんとした言葉として結実していた。

流れとかたち――万物のデザインを決める新たな物理法則

流れとかたち――万物のデザインを決める新たな物理法則

コンストラクタル法則とべき分布、太極*1

コンストラクタル法則 - HPO:機密日誌

パターンの生成は、流動系のさまざまな構成要素の間に現れる予測可能なデザインにはっきり見て取れる。自然界のあらゆる場所で見られる脈管構造の階層制のデザインは、多くのスケールの流路を生み出すことで、自らのさまざまな流れの速度(それぞれの流れが、速いか遅いかという、自らにとって最善のかたちで機能する流動様式を選ぶ)を均衡させる。パターンの生成は他にも見られる。たとえば、森林における樹木の大きさの階層的分配を含めた、さらに大きな流動分配ネットワークの、進化を続けるデザインの中や、人間の定住地(少数の大都市と多数の小規模地域社会)が出現する過程だ。

私の「距離、時間、そして統治と戦争」も種としての加速の果てにインターネットを取り込んだ社会の出現で終わっていた。「流れとかたち」も「人間と機械の一体化した種」という表現で「使用される動力、時間」の発展により地球規模のコミュニティが生まれる予感で終わっている。

人間と機械の一体化した種

Amazon.co.jp: 流れとかたち――万物のデザインを決める新たな物理法則: エイドリアン・ベジャン, J. ペダー・ゼイン, 柴田裕之: 本

実に有意義な読書体験であり、思索の時間であった。

自分自身への備忘のために、これからエントリーとしてまとめるべき事柄をリストにしておく。

  • コンストラクタル法則から見た都市の生成と規模分布
  • 規模が大きくなることによって起こるボラティリティ、統治の不完全さ
  • コンストラクタル法則と「徳の起源」に見られる進化社会学的見地の統合
  • 社会的なインフラがコンストラクタルに整えられていくとすれば、老舗企業よりも新規スタートアップが圧倒的に有利になるはずではないか?それとも、本書の大学に関する議論と大企業は同じと見るべきか?

*1:正確に言えば太極の記述は「大も小も崩れる」だ。ただし、極大が崩れる時の影響の方が遥かに大きい。小は常に生成されている。