山本七平の「私の中の日本軍」のこの一節にいまにも通じる「なにか」を感じた。
私の親しかった同年輩のI少尉は(昭和二十年)八月十三日に戦死した。彼とその部下はジャングルから少し出たところの民家で包囲され、全滅した。私は彼を救出しようとして果たせなかった。ジャングルを出るとき、この民家の焼跡の傍らを通ったが、そのとき思わず「おれだけはジャングルにもどろう」という気になった。
事実、死者が自分に「おれたちを放って、去って行ってはくれるな」と言っているような気持ちは、すべての人にあったのではないかと思う。

- 作者: 山本七平
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1983/05
- メディア: 文庫
- 購入: 2人 クリック: 24回
- この商品を含むブログ (19件) を見る
「なにか」とは死者の声としかいいようのない「なにか」。死者は変われない。死んだまま。死んだままの姿が、後々まで生きている我々を動かし続ける。そうそう、このへたくそな文章を読めるのも、あなたはまだ生きているから。
平時の我々にとっても、葬式とは生きている我々のためにある。死者はいくらお経をあげてもらっても、悟ることはない。
そうそう、ある意味安冨先生の「生きるための論語」も死者の声からいかに自由になるかという本。

- 作者: 安冨歩
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2012/04/04
- メディア: 新書
- 購入: 2人 クリック: 13回
- この商品を含むブログ (13件) を見る
死者への愛だけでなく、死者への憎悪、うらみつらみも、死者の声を増幅させる拡声器。