HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

書評 「エンデの遺言」

いいかげんにしなければの「昨日日記」。どうにもこうにも忙しい。ま、忙しいことはありがたいこと。

忙しいのは、実はブログ界隈よりも、街あるきが楽しいというのもある。ブログに飽きたというわけではないのだが、リアルで人と会うのがなにより楽しい。新しく会う方も、昔から存じ上げている方も、同じ街でもこんなに自分が街を好きだと思えるかどうかで、観方が変わるのだと自分で驚く。この前のジャズといい、自分の街にいるということはこんなにも楽しいことなのだとつくづく実感している。

さてさて、書評だ。本書では、エンデの遺言、スタンプ貨幣を提唱したゲゼル、そして各地の地域通貨の取り組みが紹介されている。

エンデの遺言―「根源からお金を問うこと」

エンデの遺言―「根源からお金を問うこと」

実に共鳴することが随所にあった。そもそも、この本とはなかなかの縁なのだ、私は。ま、一度書いたことはできる限り二度は書かない主義なので詳しくは別のエントリーにゆずる。*1


たとえば、ゲゼルがロビンソン・クルーソーと漂着した訪問者との間の対話で、利子について説明している箇所。

「しかし、あなたにいっておかなくちゃなりませんが、私は利子を支払いませんよ。払わなければならないくらいなら、狩猟や漁でもして生きていきます。私の信仰は利子を取ることも、支払うことも禁じているのです。」

シャバダバ娑婆の世界では、逆に利子を払うことが信仰なのだと。お金は、ものの価値を計り、流通を促進する指標にすぎないはずなのに、現にロビンソンの持っている皮も、魚も、日に日にくさっていくではないか?なぜ指標にすぎない貨幣には逆に利子をつけなければならないのかと。

先日のおふざけエントリーで、まじめにこう書いた。

ゼロクーポンの長期国債を発行した。

200X年、米軍日本再占領 - HPO:機密日誌

ゼロクーポン国債は、発行の時の入札で割引されてしまうので正確に言えば利子をつけないわけではないが、現在の大混乱の金融情勢であれば価値が比較的変動しないと考えられる信頼された通貨で建てられた国債であれば、額面での償還が約束されているだけで流通し、資産として計上することができるだろう。

「老化する貨幣」という概念の有効性がいかに現在の経済学で認められているかは、池田信夫先生のコメントを読んで確信が深まった。もっとも、私にはまだ理解できない「実質金利が負」になるという状態と「老化する貨幣」が同じであるかは確信がないことは言い訳しておく。

同様の質問がたくさん来るのでお答えしますが、自然利子率が負になっているとき、何らかの方法で実質金利を負にできれば望ましいという点は、ほとんど 100%の経済学者のコンセンサスでしょう(それで問題がすべて解決するわけではないが)。またその手段として、マイルドなインフレを起こすことができれば、実質金利を負にできるというのもコンセンサスです。

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エンデの三層の社会という考え方にも共鳴する。

「史上存在した国家は、二つの権力グループに集約することができると思います。祭壇と王座がそれです。(中略)もうひとつの要素が加わったのです。それが経済生活です。」

私の言葉でいえば、「剣、コーラン、交易のいずれが重いか? - HPO:機密日誌」ということになる。

エンデはどこまでも加速していく回転木馬の例を引きながら経済がどこまでどこまで巨大化していくことはできないことに警鐘を鳴らしていた。本書ではケネディさんという建築家がグラフでこれを説明していた。

回転木馬がばらばらになるまで加速する、経済成長第一主義の今にの社会では、今回の金融危機のように危機を迎える世界経済と、ごくごく身近な経済とは大きな不整合があることを私も肌身で感じる。街と世界は直線では結べない。

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この意味で、深く共感するのは「老化する貨幣」を提唱したゲゼルはもともと実務家であったという事実だ。アルゼンチンで貿易関係の商売をしている時、まさにこのグラフの通り、国際経済と国内の経済との悩んだのだろう。

「三層の社会」を提唱したシュタイナーにも、本書では触れられている。お二人の生没年にも共感せざるを得なかった。

シュタイナーは1861年生まれ、ゲゼルは1862年生まれ、それぞれ没年も1925年と1930年ですから、二人は完全に同時代を生きたといえます。

実は私は60年代生まれだ。ちょうどこのお二人と100年違う人生を送っている。ふと自分の人生の帰着点をこの一行に感じたりするのだが、それはまた別な話。

ほかにも書きたいことはたくさんある。しかし、それは8日の勉強会のために取っておきたい。

ああ、最後にひとつだけ。エンデは「希望」の価値についていつも語っていたと聞く。人には希望が必要なのだ。くだんのおふざけエントリーのこのくだり。

政策転換は技術開発にも大きな呼び水となり放射能除去装置をはじめ、宇宙エレベーターなどの開発により、無限のエネルギーが実現化されるのも時間の問題であると確信されていた。

200X年、米軍日本再占領 - HPO:機密日誌

宇宙エレベーターなんて採算あわんだろうといわないでほしい。以前国を超えてリニアモーターを走らせようという構想があったと聞いた。採算は旅客では無理でも、超電導の電力送信でまかなうのだと。宇宙エレベーター*2が実現化すれば、それ自体が送電線として活躍するばかりでなく、宇宙発電所に必要な資材をロケット打ち上げなどととは比較にならないほど低コストで持ち上げることができる。

人には希望が必要なのだ。宇宙ほど大きな希望はない。

ちょっと大きく出てしまったが、私の当面の結論は宇宙ではない。

エンデの遺言をめぐる冒険の帰着は、地域であると私は思う。地域通貨のなにがすばらしいかといえば、外の通貨が値段があがろうがさがろうが地域の信頼できる相手とは同じ価値観で取引できる。いまは確かにすべてのものがつながっているために実感できないが、街は楽しいのだ。

もちょっと難しくいうこともできる。

バークの言う「自由」とは、持てる者同士がお互いの資産に手を出さない誓いを立てて初めて自分の資産を「自由」にできた

バークとドラッカー - HPO:機密日誌

ここで、資産をお金で計ろうとするからことがおかしくなる。近所の評判だって重要な資産なのだ。評判という資産をお互いにお金ではなく計ることができるからこそ、お互いに信頼しあえる。あるいは、信頼できないと確実に判断できる。お金で測ることが取引の前提では決してない。

そこで、安冨先生の「貨幣の複雑性」と本書の主張との比較につながる。あるいは、いかにエンデが現在の金融危機を予言していたかについてもふれそこねた。その辺は、...あとで書く、...はず。

■勉強会の詳細はこちらへ!

iXUSさん、お待ちしてます!

突然ですが、21世紀のテクノロジーと現在の問題解決と未来の規格に合わせた
通貨システムを模索しよう、という勉強会を開こうと思います。
興味のある方は、是非ご参加ください。
参加方法はこのイベント参加より表明をお願いします。

〜『エンデの遺言』から未来を ... - べき乗則とネット信頼通貨 | mixiコミュニティ

■うーん

それは、皮肉でおっしゃっているのですよね?

最終的にこれを統制するのは国家しかあり得ず、考えてみると効率化を求めて巨大化した資本が最終的には適正な市場による調整能力を失うプロセスで過剰に非効率化し、国家による統分配、統制に任される、というマルクスの予言ははからずも当たっている、ということになりますね。

余計な御世話 - 債券・株・為替 中年金融マン ぐっちーさんの金持ちまっしぐら

*1:二度同じことを書いているようにほかからは見えたり、「べき乗病」といわれるほどべき分布べき分布べき分布とぶつぶつ言っているように見えても、本人は健忘症が進んでいるので、常にフレッシュな気持ちで書いていることを察してほしい。

*2:すみません、軌道エレベーターでしたね。