ハイエクの自由から、ジェイコブズの多様性が生まれると書いた。その間のプロセスは書かなかった。
ハイエクとジェイコブズの間に安冨歩先生を置くと、このプロセスが見えてくる。
必要な補助線は二本。一本目は、ハイエクの自由から「生きるための経済学」、「経済学の船出」で語られた安冨先生のハラスメントへ。二本目は、「貨幣の複雑性」における貨幣の生成と消滅のプロセスから多様性の価値を導いた過程の先に、ジェイコブズの多様性まで。
生きるための経済学―“選択の自由”からの脱却 (NHKブックス)
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ハイエクは自由についてこう書いている。
もし全知全能の人がいて、現在の希望ばかりでなく、将来の欲求や欲望も達成されるかどうかを知っていれば、自由の必要はほとんどない。逆に、個人の自由は将来についての完全な予測を不可能にする。したがって自由は、予測も予言もできない未知の可能性を開くために必要なのだ。[中略]人々が知っていることはあまりにも少なく、とくにだれがもっともよく知っているかを知らないから、われわれは多くの人の独立した行動と競争的な努力によって、望ましい未来が自発的に生まれてくることを信じるのだ。
ハイエク 知識社会の自由主義 (PHP新書) - はてなキーワード
統治機関というのは、大きな矛盾だ。人を人が統治しようとする行為と、人の自由は矛盾する。「個人の自由は将来についての予測を不可能にする」ために、人の集団としての統治機関は人の自由を抑制しようとする。本来市民を幸せにし、個人の自由を拡大するために、個人としての人と人との間では調整不可能なことがらがたくさんあるので、昔は王政という正統性とカリスマにより、現代では民主的な手続きにより統治機関に委任された。しかし、個人の自由と権利、現代福祉国家では個人の経済的安定と巨大な国の借金との間で トレードオフが存在する。いずれか一つを追求すれば、他方が犠牲になる。それでも、統治機関は「あなたの幸せを実現します。この政策は弱者を守ります。」とプロパガンダを行う。
安冨先生のおっしゃる「ハラスメント」のもっとも巨大な構造がここにある。個人をハラスメントしてしまう最大の主体は統治機関ではないだろうか。
自分の意思を無理やりに通すことを「暴力」と呼びたい。愛だと口ではいいながら、愛の名のもとに相手を支配することは暴力だ。安冨歩先生がハラスメントと読んだのは、愛の形をとった支配しようとする意思ではなかったか?
愛と嫉妬と支配と暴力 - HPO:機密日誌
統治機関はトレードオフを隠し、安冨先生のハラスメントを徹底しうようとする。完全なハラスメントこそが、完全な統治となる。この時、人の自由は消える。
統治に含まれるトレードオフの存在をある程度許容すること、そして同時に、統治のハラスメントの仕組みに気づいていること。そうして、初めて人は統治の下でも自由になれる。矛盾とトレードオフの間のどこかに、「自由は、予測も予言もできない未知の可能性を開くために必要」なバランスを発見できる。
絆のある都市の生活者であるジェイコブズにとって多様性とは説明する必要もないほど、高い価値を持っていた。「貨幣の複雑性」の中で、経済活動においける選択の分析と通して、安冨先生は、「経済的豊かさとは選択の幅の多様さだ」と意味のことを語っていた*1。また、同書において安冨先生は、多様性の中から価値のハブとしての商品が「進化」するプロセス、そして、ハブとして進化するが故に崩壊に至るプロセスについて明らかにされた。
15分で読む「貨幣の複雑性」 - HPO:機密日誌
従って、優秀な統治機関であり、ありとあらゆる方法で自由な選択の幅をせばめ、統一された政策を徹底すればするほど、生活の豊かさは失われ、既存の商品のハブである貨幣の地位を強化することとなる。幸福と安定を実現しようとするあまり、多様性が失われ結果的に社会と経済とコミュニティーを逆に不安定化させるプロセスとなる。2007年のリーマン・ショック、この1年あまりのヨーロッパの信用不安など、優秀な統治機関であればあるほど、衝撃的に大きな「崩壊」を招くことが実証された。ジェイコブズや、ハイエクの不安が可視化されたと私には思える。
少々先走りすぎたが、統治、政策が優先されるのではなく、人々が自由であるがゆえに多様性のある社会ネットワーク、ソーシャルキャピタルを成長させつづけることこそが「経済の本質」だとジェイコブズは主張しているのだと私は想う。
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どうも、ハイエクの自由とジェイコブズの多様性をつなぐ試みを十分に発展させることができない。まだ不十分な議論ばかり。
反省。
*1:別の著書では牢獄としての自由について語っておられるが・・・。 安富歩「生きるための経済学 〈選択の自由〉からの脱却」 - ラスカルの備忘録
*2:そうそう、あらためて「経済学の本質」ではなく、「経済の本質」というタイトルであることに注意すべきなかと。経済学を批判することが目的ではなかったと想う。