市場には市場の本分があり、統治者には統治者の本分がある。それぞれに、倫理は違って当たり前というのが「市場の倫理、統治の倫理」の主張。そして、この2つの混合が最悪の結果をもたらすと。
「東大話法」とは、本来「市場の倫理」に基づいて発言すべき方々が「統治の倫理」に踏み込み過ぎているという話し。
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この最悪の混合には、マフィア、マルクス主義、イギリス病、投資銀行などがふくまれる。
- 作者: ジェインジェイコブズ,Jane Jacobs,香西泰
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ジェイコブズは、この混合をプラトンにまでさかのぼっている。プラトンは、ジェイコブズのいう市場の隣地と統治の倫理の混合を、「他人の仕事への介入」といっているそうだ。
- 作者: プラトン,藤沢令夫
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市場の倫理は商売をやっているものなら誰でも分かる。そして、いまの市民道徳はほとんどこの市場の倫理に基づいている。近代市民社会では理解が難しくなっているのは、統治の倫理の方だ。
統治の倫理
戦国時代劇で繰り返し演じられるように、権力ゲームは手段を問わず、頂点に立ったものが正しいというのがルールだ。そこでは人質や政略結婚や合従連衡など、ありとあらゆる権謀術数がめぐらされるけれど、その一方で友との約束に生命を賭けたり、敵を敬い、その死に涙を流したりもする。戦国武将は一族郎党を死地へと向かわせるのだから、ただのイヤな奴では相手にされない。ひとを率いるには、名誉とか品格とかの「人間力」が不可欠なのだ。
市場の倫理と統治の倫理 | 橘玲 公式サイト
ただ、組織、領土を維持するにはこうした統治の倫理に手を染めることが不可欠になる場面がある。ジェイコブズが主張するようにある側面では「清貧」を要求される武士道に似た「統治の倫理」体系全体では、市民道徳からみれば「邪悪」な統治の倫理であっても正当化しうる。大義のための行為なのだと。ちなみに、マキャベリズムは統治の倫理の代表例だ。
マフィアややくざの社会は、ある側面では義理、人情、分をわきまえるなど、統治の倫理に近いルールを持っている。だが、片方で市場の倫理の貪欲さを持っている。しのぎ、商売をする訳だ。ここにマフィア、やくざの社会の非合法さがある。
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わかりづらくするだけだが、安冨先生の研究の時系列と「市場の倫理、統治の倫理」を比較してみる。安冨先生の「貨幣の複雑性」で描かれるシミュレーションや思考は、市場が成り立つための最低限の倫理ーーー相手への信頼、正直さ、競争せよ、外国人とも協力せよーーーを示したと言える。
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そして、「経済学の船出」に描かれる「関所経済学」とは市場の倫理から統治の倫理へ一歩踏み出した組織形態を描いている。「関所」とは、経済学的生態系でのある種の独占とそれによる利益を指す言葉だ。
形態的な分析から、「関所」の形成と維持にはなんらかの「権力」が関わっていることが、現在の巨大企業、巨大官庁では多いと指摘している。
「関所資本主義」 - HPO機密日誌
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安冨先生のハラスメント概念も、市場の倫理の顔をした統治の倫理の一部借用だとも言える。ただし、ハラスメントの場合、守るべき「領土」があまりに狭く卑近なわけだ。
後半では、権力の源泉を分析し、組織を腐らせていく「キツネ」の存在を指摘した第7章がとても興味深かった。「キツネ」とは、組織の中で権力者と普通の人々との間をとりもつメッセンジャーの権力のことを言う。
キツネの権力は、(中略)奇妙なやり方でどんどん大きいくすることができるという厄介な性質を持っている。誰も直接見たことのないトラが実際以上に強く凶暴だというイメージをでっちあげれば良いのだ。
「友と敵理論」そのものであり、安冨歩先生のハラスメント概念に近しいものを感じる。
キツネの跋扈と組織の腐り方 - HPO機密日誌
そして、「東大話法」はそれぞれの学者が「統治」を全うするためだと意識的、無意識的に市場の倫理に基づくべき学問の世界に、統治の倫理を持ち込んだ代表例だと言える。
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この後、ジェイコブズでは、平和な時の市場の倫理と、戦時での統治の倫理の意識的な選択が大切である。それぞれだけでは、必ず腐っていくことをイギリス病に陥ったイギリスの分析などを通して例示している。現代日本においても「東大話法」の意識的「非」選択は行われるのか、このまま腐っていくのかが「市場の倫理、統治の倫理」が私たちにつつきつける大人の課題なのだ。