興味深く読んだ。鴨居玲の生涯が生前を良く知る日動画廊の副社長、長谷川智恵子氏によって描かれている。
- 作者: 長谷川智恵子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2015/05/15
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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意外だったのは、長谷川氏が仕事の上でも、プライベートでも十分に付き合った深まった後の描写。フランスのテレビに出演した時の体験だそうだ。
スタジオには鴨居の作品も数点運び入れた。テレビカメラのための照明は凄く明るい。その照明に照らされた作品は、今まで暗い黒だけの背景と思っていたところ、深い赤の色を感じさせられたのである。鴨居は下地に赤を使っていたのだ。それが見事に浮かび上がってきたのには驚いた。
没後30年展の展示室では明確に、下地の赤が意識されていた。顔の表情、服の陰影、赤い絵の具が載っているように一瞬見えるが、よく見ると下地から浮き上がっている。「流れ出す刻」だったか、まったな一本足の卵の絵から、「静止した刻」に至るベレーをかぶった赤い男の絵、スペインの絵画の影響を受けた「私の村」の人々のくろぐろした絵に至るまで、この下塗りをどう見せるかという構成になっていた。そして、下塗りが終わったキャンバスにほんの数時間で自画像や、「おっかさん」などを描き上げたという筆致の確かさも意識的に構成されていたように思う。
第二の大展示室は、主に日本に帰国してから自殺未遂を繰り返したというデッドエンドの状態、「1982年 私」に至る作品群。ここに描かれたそれぞれの登場人物がぐるっとひとまわりすれば、すべて目に入る。すばらしい構成だと思う。ある意味、手塚治虫の「スターシステム」のようだ。
若い頃から鴨居は女性にもてたのだそうだ。最期まで玲を支え続けた姉の鴨居羊子、離婚しなかったが別居していた船橋和子、年下で鴨居の写真を撮り続けたパートナー富山栄見子、鴨居は自分をささえてくれる女性に生涯めぐまれたと言える。酒もたくさん飲んだし、交友関係にも恵まれた。なんとか、司馬遼太郎が鴨居玲の葬式で弔辞を読んでいる。
唯一、長谷川美智子氏の描写の中で、日動画廊の姿勢がどのようなものであったかが気になる。鴨居を絶大に支えたのは間違いない。プロモーションの上でも、金に無頓着であったという鴨居が長い海外の生活を含めて、日動画廊の存在が大きい。ただ、とは、推測になるので言えはしない。ちょっと気になると言う程度。
いずれにせよ、会期中にまた機会があれば行ってみたい展覧会だ。