HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

CASSHERN

シェークスピアなみの悲劇性を感じた。

CASSHERN

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正直、本作を観るまで「宇多田から金を引き出したPV監督紀里谷氏が、勝手気ままに作って商業的にも失敗した映画。宇多田の金を使ったあげくに、紀里谷氏のわがまま、浮気などが原因で離婚したに違いない。」とひどい偏見をいだいていた。いや、我ながらひどい。

1968年生まれの紀里谷氏は、私と同年代。アニメ版の「キャシャーン」が大好きだったという気持ちがよくわかる。それに、本作は私の大好きな伊勢谷友介さんを始め豪華なメンバーが並ぶ。CGも05年とは思えないほど、こなれた表現がされている。よくよく調べてみると商業的にも決して失敗ではない。紀里谷監督のPVもいくつか改めて見なした。そもそも紀里谷監督は映像のボキャブラリーが豊富だ。放浪生活を送っていた時に身についたのだろうか?

21歳のときデザイン会社を設立するもうまくいかず、ヨーロッパやアフリカを放浪。大学中退後の5年間は何をやってもうまくいかず、自ら「暗黒の時代」と呼んでいる。NY在住時26歳のときに知り合いから頼まれた音楽雑誌『VIBE』用の作品をきっかけに写真の仕事を始め、ジェイ・Zなど多くのアーティストの写真を手掛けるようになる。

紀里谷和明 - Wikipedia


宇多田ヒカル - FINAL DISTANCE - YouTube

なによりも、現在も続くテロの憎しみの連鎖の時代を本作は見事に描いている。詳しくは核心に触れるので敢えてかかないが、同じ人間なのにほんの少しの違いを大きな差だと偏見、嫌悪にしてしまう、あるいは自分の優位さだと受け止め、相手を殺すことすら正当化してしまうの人間の性が確かに存在する。繰り返すがシェークスピア悲劇に通じる人の救いようのなさを架空の世界で見事に描いている。

この映画においては、アニメ版から借りてきた名前も、キャシャーンの強さも、蘇りも、憎しみと憎しみの戦いを神話として語るためのアイコンとして使われたに過ぎない。


宇多田ヒカル - 誰かの願いが叶うころ - YouTube

この映画を観た後に、本作にテーマ曲として提供された宇多田ヒカルの「誰かの願いが叶うころ」を改めて聴くと、この悲劇を宇多田を等身大に引き寄せて歌っていたことがよくわかる。この曲を宇多田と紀里谷監督の心のすれ違いだと想って聴いていた私があまりに卑小であった。そして、映画の出演者が宇多田ヒカルの曲に合わせて絵本の中の世界で別れのロンドを踊るというPVの持つ意味が伝わる。三人の恋愛関係でそれぞれが幸せになりたいために誰か一人を不幸にしてしまうという程度の心性がテロの原因であり、大きな戦争のダイナミズムであるのだと。

ここに立つと、離婚の原因は紀里谷監督側の問題ではなく、きっと宇多田ヒカルの側の問題であったろうという心象に通じる。

「彼の方が大変だったと思いますね。要するに、孤独みたいな私の像を救おうとしてくれたんですよね。でも結局、私は救われようとしなかったのかな….というところに帰結するんですかね。何か違う救われ方を望んでるのかもしれないですね」

-もうちょっと具体的に言える?

「彼の言っている救いみたいなものが、私は違う気がしちゃったのかな….それは(結婚してからの何年かでの)成長だったり、気持ちの変化によるものもあると思うんだけど……..私に欠けてたものを与えてくれようとはしたんですけど、結局、私は割と元のまんまで。ひとりっ子の悪いクセみたいなのが爆発したみたいに、自己解決しちゃった部分が大きいんですよ。それって恋愛してて最悪じゃないですか。だから凄く勝手な感じはするかもしれないんですけど….でも自己解決しちゃったっていえば、それだけのことかもしれないですね」

宇多田ヒカルの心・思い3 紀里谷和明 | Heart&Communication-対話による心の治療-精神分析