マルコム・グラッドウェルの著作は表面的な意味だけではない、深い意図が隠されていることがある。「第1感」という邦題のタイトルは実は適切でない。原題の"Blink : The Power of Thinking Without Thinking."こそが、グラッドウェルの企図だ。
- 作者: マルコム・グラッドウェル,沢田博,阿部尚美
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2006/02/23
- メディア: 単行本
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- 作者: Malcolm Gladwell
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"Blink"というタイトルを直訳すれば、「瞬く間:考えないで考える力」となる。「瞬くほどの一瞬」で認識されるものごとで人は本来十分な対応ができる、という意味だろう。兵士として訓練を積むとか、美術のプロになる勉強などは、与えられた環境の中から数少ないが大切なポイントを掴む力を身につけるということだと。
認知心理学でよく「方略」("heuristic")ということが言われる。「方略」とは認知心理学で、十分な思考のプロセスを経ることなく解決手段に「飛びつく」認識の様態を言う。例えば子どもの遊びの「方略」であったり、学習の「方略」であったりする。「方略」と日本語で言っているときはよくわからなかったが、英語で"heuristic"というと「見つける」というニュアンスがある。
ギリシャ語「見つける」の意
heuristicの意味 - 英和辞典 Weblio辞書
ただし、「方略」は「戦略」のように考え抜かれた手段ではないので、必ずしもベストとは限らない。いうまでもないが、きちんと思考のステップを踏んで、数学の問題を解くように対応することは、認知心理学でも「戦略」"strategy"という。
ギリシャ語「軍を導くこと」の意
strategyの意味 - 英和辞典 Weblio辞書
まさに「考えないで考える力」は認知心理学では「方略」、"heuristic"だ。やっている本人がなぜそうしたか説明できない。「私」よりも先に「身体」が考える力だといってもいい。
本書に出てくる「ER」のモデルになったという救急病棟のドクターの話しは、「瞬く間」というには、長すぎる時間をかけて心臓病の診断に必要な3つの要素を割り出したということだった。「瞬く間」("Blink")でないのに、この話しが紹介されいているのは、要素の抽出=発見こそが、本書の真のテーマだからだ。
そもそも、日本語(中国語)で「方略」とは「方法(手段)を略す」、つまり最小限のステップで解答に至る手段という意味となる。だから、ごくごく小さいプロセスから、戦い方の「発見」まで範囲が広い。
では、どうやったら数少ない重要な要素を「発見」できるかが問題となる。逆は明確だ。男女の偏見、マイノリティへの思い込みなどが正しい「方略」の阻害要因となる。これらの阻害要因も本書では何度もなんどもでてくる。
私を「べき乗則」へ連れて行ってくれたマルコム・グラッドウェルだけある。深い。