HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

特攻と善

先日知覧を訪れた。数々の若き特攻隊員の遺言や、絶筆に心を打たれた。

*1

だが、知覧特攻平和会館には違和感があると同行して下さった志を同じくする方々から指摘があった。平和会館のプレゼンテーション映像や、話しが平和や、家族愛を強調しすぎていることにあり、隊員たちの忠義の心を当たり前に見ていないことにあると教えていただいた。

同士のみんなと同意をみたのは、そして、今回の知覧見学で心を動かされたのは、特攻の母と言われる鳥濱トメさんの後年のこの言葉だ。

命より大切なものがある! それは、徳を貫くことである

トメさんには行動があった。大義のため、国を守るため、ふるさとを守るため、日本の未来をもたらすため、家族のために死にゆく隊員たちの心をなぐさめた。母の愛が欲しいものにはこころゆくまで甘えさせた。恋人が訪ねてきた隊員には、別れのひと時を取り持った。伝えるに伝えきれない隊員の思いを、残される家族への思いを手紙にした。トメさんには命をかけても積むべき徳は明確であったに違いない。

私には帰りの飛行機でサンデル教授の「これからの正義」を読んでトメさんを思い出した。ああ、徳を積むのになにも難しい理屈は必要ないと。

これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学

これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学

サンデル教授の暴走する路面電車のジレンマはまさに特攻隊員たちの迷いと重ねられるだろう。暴走する路面電車から五人の作業員を救うために、待機線路の一人を犠牲にすべきか否かのジレンマだ。特攻隊員たちにとってはまさにこの一人の犠牲が自分自身であったに違いない。*2

サンデル教授は二千年前のアリストテレスの正義に新たな命を吹き込もうとしているように私には思える。サンデル教授はアリストテレスの言葉を引用する。

あらゆる都市国家*3、真にその名にふさわしく、しかも名ばかりでないならば、善の促進という目的に邁進しなければならない。さもないと、政治的同体は単なる同盟に堕してしまう・・・「一人ひとりの権利が他人に侵されないよう保証するもの」となってしまう。---本来なら、都市国家の市民を善良で公正な者とするための生活の掟であるべきなのに。

そして、道徳責任に3つのカテゴリーがあることを示す。

1 自然的義務: 普遍的。合意を必要としない。
2 自発的責務: 個別的。合意を必要とする。
3 連単の責務: 個別的。合意を必要としない。

まさに特攻隊員たちは、カテゴリー3のふるさと、家族、恋人などとの連帯の最たるものとして、国に忠義を尽くそうとした。自らが、徳を積む手本として後進に未来を託した。その未来の日本を託されたバトンを私たちは受け取らなければならない。

功利主義の「最大多数の最大幸福」は、社会主義の計算問題と同じで、べき乗則を持ち出すまでもなく、最大多数の最大幸福は、計算不能の問題だ。ハナから破綻している。

カント以来の近代哲学においては、個人の信条を選択するという理性的存在としての自分が想定される。この自分はカントに匹敵するくらい、教養と理性を持った人間でなければなない。

まだまだサンデル教授に至る過程を書かねばならないのだが、旅の疲れかあまりに眠いので今日は寝る。

*1:本書には特攻の戦果についても書いてある。かなりの割合で敵艦を撃沈していた。

*2:この考えからすると以前読んだ「永遠のゼロ」の感想を再考しなければならない。 「永遠の0」 - HPO:機密日誌

*3:ポリスをここでギリシア語で書くべきなのだがそれだけの教養が私にはない