HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

米兵は「最後の人間」か?

■米軍には「最後の人間」達しかいない

本を読むのが遅いので、3週間あまりかけてようやく「歴史の終わり」を読了した。この3週間の間にリアルは当然動いているわけだ。平成16年5月6日現在の「今」の様子をみて感じるのは現在の米軍の兵士達は、まさしくフランシス・フクヤマヘーゲルの言う「最後の人間」達なのではないかということだ。フクヤマは、「歴史の終わり」でこう書いている。

歴史の始点にいた奴隷は、本能的に臆病であったため、血なまぐさい戦いにみずからの生命を賭けることを辞退した。歴史の終点にいる最後の人間は、歴史が無目的な戦争に満ち、そのなかで人々がキリスト教徒とイスラム教徒の、プロテスタントカトリックの、あるいはドイツ人とフランス人のどちらかにつくのかをめぐって争ってきたことに気づいているため、ある大儀に生命を賭けるような愚かな振る舞いはしない。

いまさら、フクヤマヘーゲルをひきあいに出して説明するほどのことではないが、米軍の兵士は「戦う」という一点だけからみれば確実に質はおちている。あるいは、国につくすという概念は彼らにはほとんどない。彼らの大半はせいぜい、金のために戦うという程度だ(*1)。あまりそれを悪くいうつもりもない。本国で住む家があり、職があり、家庭があり、多分借金もあれば、最前線で働く気がしなくなるのが当然だろう。米軍の上層部からして、金や経済的な利益で動いているのなら、一番最前線の兵士の動機も金、利益だろう。

■リアルの戦争、ネットの情報戦

戦争は、必ずも物量だけで決まる訳ではない。物理的な戦争でいったら、今回の騒乱において反乱ゲリラ側に勝ち目はない。もし、勝ち目があるとすれば、情報戦においてだ。十分に組織化され、極端な貧困層のない、「リベラルな民主主義」国家が国際社会の大勢をしめる現代のような状況にあれば、極めて人道的な「大儀」が国際社会を動かしうる。あたりまえだが、もう帝国主義は通じない。こういう状況では、もし「大儀」が破れたときには、戦争を起こした側の内政に極めて大きな衝撃をあたえることになる。「大儀」を国際社会にも、国内の市民にも説明できる戦争でなければならない。

今回のようなあとからあとから米国に不利な情報が出てくる状況においては、米国の国政を担当する指導者達はその最終的な目的を達成するのは困難だといえる。彼らにとって、ごくごく短い時間のうちに、国際的な情報戦、広報戦を抑えることがなにより大事になる。「大儀」といっても、当然道義的な「大儀」ではなく、この戦争に勝った時にどう国民の利益につなげられるか、どう国際的に非難されずにすむかといった、ごく功利的な「大儀」が必要とされるのであろう。

ここにおいて、十分に経済的にも、情報インフラとしても、つながった現代の国際社会において、極めてコストが安くリアルタイムで全世界にアピールできるネットの存在が脚光をあびうるのだろう。今、私はにとって、CPAの発表だろうと、全世界の新聞の発表だろうと、日本のごくローカルな地域にいながらにしてアクセス可能だ。アクセス可能なばかりではなく、ごく簡単に、翻訳され、要点を強調され、背景の説明を加えられた情報を検索できる。逆の立場から見れば、十分に民主的な(ああ、日本語の民主主義だとなんかニュアンス違う。*2)「最後の人間」達が主権を握っている国々で構成される国際世論に対してアピールしうるネタがあれば、簡単に全世界にアピールすることができる、ネタを武器として使える。こう考えるときに、今回の捕虜虐待、各国人を人質にとったイラク人、といったイラクにおける反抗、反米の動きが理解できる。ネットがリアルに影響力をもちつつある。ネットのコストの安さと早さが驚異的だからだ。うまい情報が流れればたちまちネット上のヒット商品になる。

■国づくり: Nation Building

なぜ情報戦、広報戦になるかの理由は、まだいくつかある。

たとえば、すでに米国兵士も、米国民もすでにデモクラシーを生得のものとして享受していて、大儀に鈍感に、自分たちの痛みに敏感になっている。昨日、たまたまCNNを見ていたら、米国の誰かからの投稿で、「なぜイラクにおいて米兵が戦わなければならないのか?こんな戦いは無意味じゃないか?一体、イラクを制圧して米国のなんの利益になるというのか?」という意見が流れていた。米国のいまの市民の気持ちの少なくとも一端を伝えるものであろう。現代の政治においては、外交と内政は複雑に入り組んでいると感じる。

また、一国、あるいは数国の連合軍が、武力である国を制圧したとしても、戦争の目的の半分も達成したことにはならない。武力で制圧できても、その国を自分の領土に加えるということは、いくら米国であっても他国の協力、承認を得られないであろう。一方、現代の経済社会において、十分に自国に経済的な利益(それが破壊から自国が守られると言うことも含めて)をあげうるものでなければ、戦争を起こすこと自体を正当化することができない。別な記事で輪郭をなぞったように、現代においては、戦争も自由主義経済体制に組み込まれている。私は、CPAの予算の支出項目の70%を「finance」という費用項目でしめられているのをみてからずっと、米国のイラク侵略において、巨大金融機関が一番利益をあげていると感じている。

つまりは、戦後の体制をどうするかというところまで、あるいはビジネス戦略でよく言われる出口戦略(Exit Strategy)がとても大事になるということだと、私は理解している。

このことをフランシス・フクヤマもいっているようだ。あえて、孫引きしたい。下手な翻訳なので、できれば原文にあたることをおすすめする。記事自体も大変興味深い内容だった。

(アトランティック・オンライン「国づくり("Nation Building 101")」)

The chief threats to us and to world order come from weak, collapsed, or failed states. Learning how to fix such states and building necessary political support at home will be a defining issue for America in the century ahead.

by Francis Fukuyama

以下、私の翻訳。保証のほどではない。

我々(アメリカ)に対する、あるいは世界秩序に対する主要な脅威は、政府権力のない、崩壊した、あるいは、失政状態の国々から起こってくる。いかにしてこのような国家の状態を修正し、当該国内における必要な政治的援助を形成することを学ぶことが、来るべき世紀におけるアメリカの明確になりつつある主要な課題となるだろう。(*3

■一応、議論をしめないといけない。

そして、そして、...この記事の一応の結論にたどり着きたい。私が不慣れな国際情勢を語っても、所詮は素人の見たものにすぎない。私が検証したかったのは、多分日本の指導者が選択した外交政策でいま内政にも及ぶ「揺れ」を経験しているように、米国も米国の指導者が選択した方針の結果にゆれていて、決して一枚岩ではないといことだ。パワーでいけば、超一極の米国も、一皮めくれば、ラップを聞いたり、ナイキの靴を履いたりしている、ごくごく我々から見て普通な国民で構成されている、ということだ。米国であっても、日本の指導者であっても、米国のどんなに強力な指導者であったとしても、気概を持たないくせに情報源だけはいっぱいもっているそれぞれの「最後の人間」である国民達はてごわい相手に違いない。一体、この外交問題、国防問題が一応の収束を見たときに、どんな内政の問題や選挙結果がそれぞれの国で待っているかということの方が興味深いのかもしれない。

■注
*1
 当然どんな集団にも例外はいる。私は直接接触はなかったが私が信頼申し上げている方が米軍のトップに近い人物に公式にあった感想を教えてくれた。「後光が差していた」、という。その人物は今回のイラクへの侵攻にも疑問を投げかけたと聞いている。すべて気概の「最後の人間」であると主張することできない。

むなぐるまさんやnobuさんが、米国の兵士が米国の貧困層出身が多いということについて書いていらっしゃる。このことは、そのまま最後の人間であることにはつながらないが、米国の政策の一端が垣間見られるように感じる。

*2
 デモクラシーと民主主義の違いを述べれば、それだけでいくつも記事が書けてしまうだろう。ここでは、自分の一番印象的なエピソードだけを披露したい。「ビジネスと社会」とかいう授業で米国の女の子が、「デモクラシーのない世界なんて考えられない。デモクラシーのない社会では、誰も顔をあげて通りをあるけない。」と言っていた。米国でデモクラシーといういうとき、単に主権が人民にあるということをこえて極めて情緒的な、極めて道義的な、要素を含んでいるように感じた瞬間であった。道義的というものには、「寛容」という要素をも含むと思われる。

*3
 こうして、なぜ今ごろフランシス・フクヤマが、「State-Building: Governance and World Order in the 21st Century」なんて本をだすかが自分で理解できた。ウニさんm_um_uさんに教えていただいた、イラクと「state-building」に関して、アラブ系の新聞にフクヤマが応えたインタビュー記事もある。

■参照リンク
「大中東イニシアティブ」(The Greater Middle East Initiative、略称GMEI)とは?
日本の将来を妄想する by Miyakodaさん
イラクでの日系米軍兵士の死  by MAOさん
A prisoner recalls the abuse by Ian Fisher/NYT @ The IHT online
Le Monde 社説「ブッシュとカオス」  by 余丁町散人さん
当たり前だけどふざけた現実だ。<イラク戦争>死亡米兵の45%は貧しい小さな町の若者 by nobuさん
ビジネスとしてのイラク統治 (HPO)
占領とレジスタンス (HPO)
[書評]フランシス・フクヤマ的国生み 〜 State Building 〜  (HPO)
戦死する若者 by 藤沢久美さん

■追記

なるほどぉ。やはり、米国に貧困層があるのは軍のためなのか...

ひどい。たしかにひどい。が、ここまでは「まだ」日本の事情を量的にひどくした「だけ」と言えばそう言えなくない。しかし、かの国には質的に日本とは決定的に異なる貧困層事情が一つある。

軍と戦争会社である。

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