HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

ベトナム人は政府にもお金にも期待していない

ベトナムはある意味で不思議な国だ。年収の平均が国全体で30万円いかない。都市部でも60万いけばいいほうだとか。インフレ率も20数パーセントだったものが収束してきたとはいえまだ8パーセント代。住宅ローンも10パーセント半ば。住宅はわりといい値段で80平米くらいが売れ筋らしいのだが、やはり1000万円くらいする。ざっと計算すれば金利が10%であったとしても、30年ローンで8万7千円。年間返済額105万円。ほとんどの人が返せる訳はない。

それでも、マンションが飛ぶように売れている。なぜか?

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国民が銀行も政府も信用していないから。

まず、インフレ率がそこそこ高いので、金利くらいは返しつつ、元金をどんどんふやすらしい。米国でも同じようなことがついこの間まであった。リスクは相当に高いが、いまの状態がつづくかぎりやってやれないことはない。共産圏の国で、銀行もデフォされてもなかなか住んでいる住人を追い出すのは骨らしい。それなら、貸し増ししてでも返してもらったほうがいいと。状況がちょっとでも変われば、阿鼻叫喚の図になるのは想像にかたくない。

それでも、マンションというモノにこだわるのはお金を信用していないからだと現地の方がおっしゃっていた。モノをつかんでいる方が、おカネよりも安心していられると。たぶん、日本は逆。どれだけ政府の悪口を言う人でもお金を預金して安心していられる。日本では、倹約することのほうが、モノをつかむよりも安心だと。インフレの国と、デフレの国の違いとは、案外国民の考え方の差、人口構成の差なのかもしれない。自然率とは国が決められるものではなく、国民の考え方の繁栄なのだという気がしているが、これはまた別な話題。

ま、裏を返せばアジアの袖の下経済が活発なので、給与所得は低いが年収は高いという連中が相当にいるのだと。さっきの試算は全額借入で計算したが、個人信用度が低いベトナムではまずありえない。いいところ、三分の一、あるいは半分の自己資金が必要なのではないだろうか。給与所得上ではありえない貯金を、どうにかしてかき集めるらしい。20代終わりで結婚、30代に死にものぐるいで貯金をして子どもが小学校にあがるころ、40代になるかならないかでマンションを買うというのがひとつのライフスタイルだと聞いた。給与以外の「所得」を必死に求める国民性が伝わる体験がいくつもあった。



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そこまでしてでも、マンションを求めるのは、国が老後を見てくれる訳はないという意識があるのだと。政府がどんな制度をつくっても、うまくいくわけはない。自分の身は自分で守るしかないのだという意識がある。ただ、この自分の身は自分で守らなければならないという意識の集合がうまくいくのかどうかは別。逆の日本での、お上意識がうまくいくかいかないかも状況に大きく依るのと一緒。この意味で「貧乏人の経済学 - もういちど貧困問題を根っこから考える」を読んでみなければならないとは思っている。

*1:この写真は中堅所得層向け。1000万円するかしないかの値段。ホーチミンの中心部から7、8キロ離れた郊外。文字通り飛ぶように売れたそうだ。

*2:中心部のちょとはずれの高級マンション。プールや、アスレチックまでついている。都内でうっても見劣りしないだろう。3000万円代が中心だとか。正直、住みたい。