HPO機密日誌

自己をならふといふは、自己をわするるなり。

負け犬の遠吠え

■はじめに

がらにもなく、「負け犬の遠吠え」について書く。実は、まだ酒井順子さんのこの本をまだ読んでいない。だから、正確に言えば、これから書くことは瀬戸智子さんの記事を読んで感じたことだ。

・「シャロット姫からノーラまで」 by 瀬戸智子さん

なかなか「負け犬」の話しが出てこないが、最後にわりとまとまって出てくるので、ご辛抱を!

■問題ってなに?

まずは、自分の問題意識から開陳する。問題意識とは、今の日本でいくつかの深刻な問題が野放しにされているように感じることだ。

・人口減少
三権分立のゆがみ = 行政府、官僚の強大な力
・選挙に対する関心の低さ = デモクラシーへの低い理解

人口減少についてはあとで書くとして、三権分立のゆがみについて代表的な例は、公的年金の積立金だ。いい悪いの判断は置くとして、国民年金、厚生年金などを合わせた公的年金の積立金の総額は230兆円を超える。しかし、この莫大な資金の運用や使途は、国会への財政報告の範囲からはずれた存在だ。毎年の年金の収支報告を読む限り、年金の収入と支出はいまのところバランスしているので、このうちのかなりの部分は税金からの繰入額を平成7年以降に積み立てたものだ。

・「積立金」 @ Yomiuri on-line 「変る年金」 
年金財政ホームページ 厚生年金 @ 厚生労働省年金局
年金財政ホームページ 国民年金 @ 厚生労働省年金局

ちなみに日本のメガバンクの預金量あわせても215兆円しかない。郵便貯金の預金量239兆円でやっと、公的年金の積立金総額に匹敵する。「しか」とか書いたが、あまりに桁が大きすぎるので、私の理解を超えている。1兆円って一万円札で何枚だっけ?積み上げると富士山の何倍だっけ?

<預金量>
東京三菱銀行:56兆円(平成16年3月期)
三井住友銀行:60兆円(平成16年3月期)
UFJ銀行:49兆円(平成16年3月期)
みずほ銀行:50兆円(平成16年3月期)
郵便貯金
・239兆円(平成13年)

ああ、そうそう国家予算ってたしか80兆円くらいだよね。さすがに、230兆円をむやみやたらとは使えないはずだが、国家予算を超える規模の資金をたぶん厚生労働省の一部局で担当している。私の想像の範囲のはるか先にある力だ。とにかく、厚生官僚だけをとっても我々の感覚をはるかに超える力をもっている。公的年金という、官僚の力のほんの一端を調べてみただけでも、私にとっては天文学的に思える資金にぶちあたる。全省庁の握る力とはどれほどのものなのだろうか?

■ばかな男の子供は産みたくない!

話しは一転して、人口減少の問題について書く。人口減少というときに、私に浮かぶのがしばらく前にみた衝撃的な発言だ。「人口減少とかいってもしょうがないじゃない。ばかな男の子供なんて産みたくない。」というコメントだ。

ああ、どうしてもこのコメントが見つからない。確かにどこかで見たのに!なぜ?

人口問題は、ほんとうに根の深い問題だ。小学校の頃に、社会科の副教本にドイツの若い夫婦のインタビューが載っていた。インタビューであるドイツ人女性は、「子供?子供は移民たちが生むものなのじゃないの?」と応えていた。子供心にこの答えが焼きついてしまった。セックスすらろくろく知らない小学生がなぜこんなことで悩んだのかいまとなっては私もわからないが、日本でこういうことが言われるようになったらそうとうやばいだろうなと感じたことは忘れない。ちなみに、この傾向は副教本から30年近くたって今でも、ドイツでは深刻な問題になっているようだ。

ドイツの人口問題と移民政策 by 田中信世さん

負け犬の遠吠え」の酒井順子さんのホンネもこの辺にあるのだろうか?

・「少子」 by 酒井順子 (アマゾンの書評参照)


瀬戸さんの記事を読ませていただいてから、少子化ということについてあちこちのサイトを読ませていただいた。実際、かなりの複合問題だと思う。この問題を、「産む性」という役割を女性の側だけにおしつけてしまってはいけないとは思う。

・「少子化問題についてのひとりごと」 by 武蔵健さん

しかし、どうしても頭から離れないのは、しばらく前に読んだ「America's Role in Nation-Building: From Germany to Iraq」というランド研究所の出した戦後の占領政策に関する分析レポートだ。

America's Role in Nation-Building: From Germany to Iraq @ Rand

このレポートには、米軍の指示による日本における「女性解放」が日本を弱体化させ、二度と戦争を起こせない国にするために行われたと書いてあるように理解した。憲法をはじめいまの日本の形は戦争中の「挙国一致体制」の中でできた機構と、敗戦後の米軍が明確な意図のもとで行った政策によって見事に運命づけられているように感じる。

これらの政策が見事にあたり、フェミニズムは見事に日本に根付き、酒井 順子さん風にいえば「負け犬」の方たちが非常にいごこちがよい社会が実現し、誰も気概のないくだらない男どもの子供は産みたくなくなり、60年先には人口が半減してしまうような国になっている。

人口、世代、そして闘争へ (HPO)


■ぼくらはみんな負け犬なのか?

そして、最初の3つの問題にもどる。

・人口減少
三権分立のゆがみ = 行政府、官僚の強大な力
・選挙に対する関心の低さ = デモクラシーへの低い理解

私には、そう私自身を含めて、誰もこれらの問題を解決しようとしていないように思われてならない。フェミニズムの問題も、年金の問題も、過大な国の債務の問題も、すべて先の世代へ、先の世代へと問題を先送りにしているのがいまの日本の現状なのではないか?いまここで解決しようとせずに次の世代へ先送りすることが、全体的な了解事項となっているような停滞感がただよっている。

なぜか?

それは、いまの国民全体が負け犬だからだ。

戦争に負けた。

お役人に負けた。

自分の所属する組織の重みに負た。

負けた男の子供なんて、女は産みたくない。

そして、そんな負け犬だから、問題を解決する力などないのだと、簡単に自己規定してしまう。だから、無駄な選挙になんかもいかない。デモクラシーなど理解しない。その父祖が流した血の重みが分からない、負け犬だから。

瀬戸さんが書かれていた「シャロット姫」は、いまの日本人の姿なのかもしれない。豪奢な部屋に住んでいても、そとを見ることがゆるされず、足には糸がまきつきいている。ようやく外の世界を見たときには、死んでしまう。

つまりは、今現在日本の国民でいるということをフランシス・フクヤマ風にいえば、原初の戦いに敗れ命乞いをしてようやく生き延びている負け犬であるということなのだ。そう、しかも飼いならされた負け犬...私がここで書いていることも負け犬の遠吠えにすぎない。

それでもまだ、これらの問題点を解決しないまでも克服する力をいまの日本ならまだもっている。まだ、我々の子供たちに対して残すべきものがある。しかし、なぜその力を行使しようとしないのだろうか?あるいは、この問題を早くから自覚して、まだ解決しうる時に力を持っていたにもかかわらず何もしなかった人たちというのはなんなのだろうか?自分の保身がそんなに大事なのか?その人たちに子供はいないのだろうか?その人たちは自分の墓場になにをもちこもうというのか?

あまりの無力感に立ちすくんでしまう。