民泊を日本で全面解禁するか否かの決定の大づめに来ている。いや、全面解禁は決定済みで、じゃあ、どこまで解禁するか、どのように解禁するかの「枠組み」のつめまできている。
枠組み案では、民泊を「家主居住型」と「家主不在型」の2つに分けて、規制の方向性を示した。家主である住宅提供者が住宅内に居住しながら、住宅の一部を貸し出す家主居住型は、行政庁への届け出だけで実施可能とする。一方、家主がいない空き家などを民泊として貸し出す家主不在型は、住宅提供者が管理者に管理を委託することが必要で、管理者は行政庁への登録を行う。
迫る民泊解禁、旅館業法の許可不要へ|日経アーキテクチュア
多くの人に理解されていないのは、そもそも都市計画法、建築基準法上「ホテル、旅館」を建てられる地域が少ないということ。ちなみに、通常の住宅からの転換も全く同じ規制を受ける。逆に言えば、都市計画法上、建築基準法上、下の表で指定された地域以外の建物で運営される民泊はすべて法令違反だ。
http://www.toshiseibi.metro.tokyo.jp/kanko/area_ree/youto_seigen.pdf
上は東京の用途地域の規制の表。普通の市町村で、そもそも用途地域が設定されている市街化区域は全体の面積の半分だったり、下手をすると二割くらいだったりする。すべてが市街化区域の市町村もあるにはあるが結構まれ。農地の殆どが市街化調整区域であり、市街化区域ですらない。この時点で農家住宅の民泊活用は法的にアウト、本来ね。
上の表で赤く囲んだ一種住居から準工業地域は、用途地域面積のうちでのアバウトで10分の1くらい。市町村によってもかなり違う。市街化区域でかつホテル、旅館が建築可能な用途市域は、ざっと市町村の面積のうち5%以下くらい。多くても10%。極めて限られている。なぜ限られているのか?これは、防災の問題、犯罪の防止など、さまざまな要素を考慮してこうなったと言える。数々の災害や、火災などを経て、現在の規制の体系となり、大枠で言えば建築基準法関係法令として、半世紀以上にわたってホテル、旅館の立地規制を維持してきた。
こうした地域以外、しかも後で触れる防災設備が整っていない、民泊で火災があった場合、どうなるのか?火災がどのように通報されるのか?道路巾や、空地があって、民泊の施設に消防車がスムーズに到達できるのか?売春はもとより、暴力団組織、テロの根拠地として民泊を使われはしないか?歴史的に形成された法的な体系を今回はかなりラフにはずそうとしていると言える。
ここを理解してから民泊先進国であるフランスのホテル関係者の発言を見ると、危機感が伝わる。
「Airbnbのイメージ戦略とその実情は全く違う。匿名性を徹底的に潰して下さい。すでにフランス全土に拡がり、取り返しがつかないほどAirbnbにやられてしまったフランスとパリの現状をよく見て下さい。日本はまだ今なら間に合う、フランスと同じ轍は踏まないで下さい。良識ある日本の皆様のご検討をお祈りしております」
民泊の不都合な真実。フランス宿泊業界関係者が緊急来日で悲痛な訴え | ハーバービジネスオンライン
この指摘はとても大事だと思う。百歩譲って防災関係の法令は緩和されたとしても、最低限でも民泊業者は登録制にすべきだと。当然の上にも当然だが、誰がその民泊を運営しているのか特定できる組織の名前、個人の名前を明示する義務を負わせるべき。当然、宿泊する側も免許証や、パスポートの写しを提出させて、個々人を同定させるべき。上記のエントリーには、今回のパリのテロでも民泊が利用されてことが示唆されている。2020年のオリンピックにおいて、テロを企図する個人、集団があれば規制のゆるい宿泊施設を利用するに決まっている。その民泊が周囲に対して迷惑をかけた場合、誰が責任を負うのかが明示されているだけでも、抑止力になる。
この増田さんの指摘は妥当性がある。
日本での問題点
不幸なことに、日本のAirbnbは、ビジネス側から入ってきている。築古マンション500万で買って、二段ベッド4つ入れて、マッチングはAirbnb。1人1500円で貸し出せば6000円/日で、8割稼働で14万/月ですよ!3年で元取れますよ!まあ、小金持ちがカモられてる段階だが、そこはそれ。
これ、さっきも言ったけど、違法ホテルで、安全性とかガン無視よね。ホテルニュージャパン火災も遠くなったからなあ。なし崩しで解禁される可能性もあるよね。というわけで、最初から「違法ホテル」と「Airbnb」とがイコールで繋がってる日本では、フランスの宿泊業界団体がシェアリングエコノミーに対して感じてる絶望感とか、ピンと来てないと思う。
フランスの宿泊業界団体代表がAirbnbに対して本当に言いたかったこと
ホテル火災の悲惨さがもう認識されていないのだろうなと。
ホテルニュージャパン火災(ホテルニュージャパンかさい)は、1982年(昭和57年)2月8日に、東京都千代田区永田町のホテルニュージャパンで起こった火災事故。33人の死者を出した。
ホテルニュージャパン火災 - Wikipedia
民泊の匿名性を容認するとは、過去に何度も発生している飯場の火災という悲劇が基本的に法的に認められてしまうということ。火災に対する防災対策もなされないまま、多数の人間が民泊の名のもとにアパートに詰め込まれて、そのまま火災ということが多発しかねない。亡くなって焼死体で発見されてどこのだれだか認定できないって、恐ろしいことだ。
お互いの好意でスタートしていればまだ救われる。そもそも投資でスタートして事故、災害が起こったら、本当に悲劇だ。まして、今回の規制緩和を悪用出来ないように最低限の規制はすべきだと考えるようになった。
こうした観点で言えばこの規制は大事。また、集合住宅等の規約、賃貸契約で民泊を禁止するなどの対策が必要。